羽化(鬼車退治後顛末) 2

文字数 493文字

 ところで、鸞が――久生が喰えない存在とは、果たして如何様(いかよう)な様なのか。

 白雀の胸の辺りに、ポツリと丹い光が燈った。
 それは、植物が芽吹くがごとくするすると天へ向けて這い登り、丁度鸞が見上げるくらいの高さで蕾のような玉を作った。

 丹い玉はしばらくの間、同じ場所で回転を繰り返していたが、何の拍子か、乾いたパリッという音をたててほどけた。

 鸞も、波武も、ただポカンとしてソレを見上げている。

 丹い玉は炎の花弁をパリパリと広げながら、どんどんとほどけていく。やがて、ソレは大人の二抱えもあるような大輪の菊花となって洞穴内の隅々まで照らしだし、辺りは春の太陽に照らされたかのように暖かな熱と光に満ちた。

 ――シャン!

 どこかから、鈴の音が響いた。

 ――チリーン! 

 続いて、涼やかな鉦の音が。

「……これは?」
 鸞が手を翳す。天井から、雪の様に次々と花弁が降ってきた。

(まさか、魂が丹と馴染んだからって、こんな見事な花になるとは思わないわよね?)

「その声は、伯労か!」
 波武が天井を見上げて叫んだ。

(うふふ。声だけでごめんなさいね。現身がどんなだったかなんて、もう昔のこと過ぎて忘れちゃったのよ)
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登場人物紹介

白雀(はくじゃく)

下級仕官の四男。戦では「花方」と呼ばれる切り込み隊の一人。

自他ともに認める朴念仁。堅物なくらいに真面目な性格。

新嘗祭の奉納舞ではトリを勤める舞の名手。

鸞(らん)

「久生(くう)」と呼ばれる魂を喰らう無形の神様。

白雀を気に入って自分の食物認定して付き纏う。

相手によって姿形を変えるが、白雀の前では5歳の童の姿でいることが多い。

傲岸不遜で態度がデカい上、戦闘能力も高い。

久生はもともと死者の魂を召し上げる役割を持つが、鸞の場合、生きている者から魂を引っこ抜くこともする。


波武(はむ)

実の名は「大波武」。成人男性を軽々背負える程の大きな白狼の姿の「尸忌(しき)」。

尸忌は、屍を召して地に返す役割を持つ神。

白雀の屍を召し損ねて以降、他に取られないように、何くれと力になる。

鳰(にお)

神に御身を御饌(みけ)に捧げる「夜光杯の儀」の贄にされ、残った右目と脳をビスクの頭部に納めた改造人間。

医術師の梟(きょう)の施療院で働いている。瀕死の白雀を看護した。

阿比(あび)

死者を弔う際に久生を呼び下ろす「謳い」。

屋代に所属しない「流しの謳い」を生業としており、波武、鸞とは古くからの知り合い。

遠仁相手に幾度となく修羅場を潜り抜けている。細かいことは気にしない性格。

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