磯の鮑 4
文字数 941文字
雎鳩の作戦とやらの支度にかかった。おおよそ、俺の予想外で悪笑いに値する莫迦げた計画だ。
「仔細は解った。意図することも理解できる」
「それは有難い」
雎鳩はニンマリと笑った。俺はムッツリとして答える。
「だが、俺は『木』ではない」
「あら。大丈夫大丈夫! 充分通るわよ」
「それは雎鳩の感想であろうよ。俺は……どうにも無理だと思う」
「じゃぁ、皆さんに聞いてみる?」
「皆さんって……誰にだ?」
雎鳩は傍にいた侍女に耳打ちすると、侍女は深く頷いて席を外した。
「誰を連れてくる気なんだ?」
俺はイライラと質問を重ねたが、雎鳩は答えず口元を扇子で隠して目を細めた。
「姫様! お呼びでございますか?」
ややあって、屋敷に仕える男衆が数人やってきた。先程逢った厨番も居る。
「おお! 待っていたぞ!」
雎鳩はニコニコしながら男衆を迎えた。雎鳩が俺に目配せをしたので、男衆は俺を見た。
それぞれ、目をパチクリさせて雎鳩に視線を戻す。
ん? 俺だぞ? 何を戸惑っておるのだ?
「……僭越ながらお尋ね申し上げまするが、姫様、この方は、どちら様で?」
厨番の言葉に、俺は目を見開いた。
マジで解らぬのか?
雎鳩は得意顔で答えた。
「
「「「「は?」」」」
そこにいる男衆全員が、目玉をかっ
なんだ、その目は。
「ああ、俺だ。鴆だ」
「「「「ええええ!」」」」
不機嫌に答えると、皆がこちらに駆け寄ってきた。
触ってよいか? と俺の身体に触れて感心している。
「いやぁ、これは解らぬ」
「うむ。鴆とは解らなんだ」
「完全にこれは……」
「
女子
じゃな」俺の片眉がピクと跳ねた。
「鏡を此れへ!」
雎鳩が得意げにこちらへ微笑むと、侍女たちに姿見を持ってこさせた。
「喉仏が見えぬように首元を立衿にして、皮袋に脂を詰めたもので贋の乳を仕立て、手先を見せぬ大袖にして……どうよ」
「どうって……」
鏡に映った己の姿をみて、俺はげっそりした。
鸞がおらんでよかった。
女装させられて侍女に仕立て上げられるとは露とも思わなかったわ。