乙女心と面目 5
文字数 601文字
高位の役人の子女には、護衛として男性侍従が付くことがある。
その場合、侍従は「安摩 」と呼ばれる面を付ける。昔からの仕来 りなので理由は定かでない。子女が従順な侍従に懸想することを避ける為とか、そもそも捨て駒である侍従の入れ替わりに心を痛めることが無いようにする為とか、もっともらしい理由がこじつけられている。
俺は、兵部大丞 の娘の侍従としてそれらしい振る舞いができるようにと知識を詰め込まれた。
要は、引く場所と出ていい場所の弁 えである。
「雎鳩 殿が、護衛に俺だけ連れてるのは却って目立つのでは?」
「白雀、雎鳩『
「う、……すまぬ」
長年の武人としての癖がなかなか抜けない。
えーと……雎鳩
「相手を油断させるためよ。いざとなれば私も反撃できる」
雎鳩は拳を作ってニヤリと笑った。
そういえば女子としてはやけに握力が強かった。
「何か嗜 んでおられるのか?」
「文官崩れに負けぬ程度には」
不敵な笑みを浮かべて、雎鳩は顎を上げた。
兵部卿の補佐を勤める大輔少輔 は実は文官出。兵站戦略の知識をもち、武力を行使する軍を支える。
軍部が力をつけすぎないようにという、いわゆる文民統制だ。
「で、俺のことはなんと呼ぶことに?」
「そうね。『鴆 』ではいかが?」
「それでは毒鳥ではないか。もう少し何かこう……気の利いたものは思い至らぬのか」
眉間に皺を寄せて雎鳩を見下ろす。
「無い」
雎鳩は、意地悪く笑った。
その場合、侍従は「
俺は、
要は、引く場所と出ていい場所の
「
「白雀、雎鳩『
様
』!」「う、……すまぬ」
長年の武人としての癖がなかなか抜けない。
えーと……雎鳩
様
だな。うん。「相手を油断させるためよ。いざとなれば私も反撃できる」
雎鳩は拳を作ってニヤリと笑った。
そういえば女子としてはやけに握力が強かった。
「何か
「文官崩れに負けぬ程度には」
不敵な笑みを浮かべて、雎鳩は顎を上げた。
兵部卿の補佐を勤める
軍部が力をつけすぎないようにという、いわゆる文民統制だ。
「で、俺のことはなんと呼ぶことに?」
「そうね。『
「それでは毒鳥ではないか。もう少し何かこう……気の利いたものは思い至らぬのか」
眉間に皺を寄せて雎鳩を見下ろす。
「無い」
雎鳩は、意地悪く笑った。