拾われたもの 3

文字数 801文字

 「自動人形」はいわゆる魔導機械。
 「人造人間」は錬成して創り上げた人工生命体。
 そして「改造人間」は生身の人間の身体に補助的に魔導機械を施したもの。

 戦で体の一部を損ねた者が、それを補うために高価な魔導機械を移植するという話は聞くが、(にお)の場合はどうだ。一見「作り物」と(まご)うこの躰のいずれかに、生身の部分があるということだ。

 男は何食わぬ顔で(にお)の説明を続ける。

(にお)の生身の部分は、脳と右目のみ。音を感じることは出来るが、声を発することは出来ぬ。コミュニケーションには特殊な念波装置を使う」

 衝撃的な言葉に、俺は相槌も打てなかった。自動人形だと言われた方がまだ受け入れやすかった。
 脳と右目だけが残るとは一体どのような状況なのだ?
 それで、コイツは生きているというのか?
 俺は、俄かに沸き起こった嫌悪感を持て余しながら、目の前にいるビスク人形を見つめた。
 面に穿たれた目を模した穴。
 虚ろに開いたその右側の奥には、生身の眼球があるのだ。

 (にお)は、男を見、それから俺を見る、という動作をしてから滑らかに首肯(うなず)いた。

 (にお)が席を外すと、男は俺を見下ろした。
「名乗るのが遅れたな。儂の名は(きょう)。医術者だ。お主の今の状態を……簡単に説明しておこう。右腕は橈骨(とうこつ)尺骨骨折。肋骨も何本か折れておったので全体を固定してある。肺臓を損ねなかったのは幸いだ。腹部損傷は一部臓器を切り取らねばならんかったが、なんとか塞いだ。左足は大腿に矢傷を受けておったが幸いと神経は無事だった様じゃ。問題は左腕じゃな。そのままでは切断も止むを得ん状況にあったが、……試しに『(たん)』を埋め込んだら上手く定着した様じゃ。よかった」

 何?
 俺は目を剥いて男を見上げた。
 この、熱を持っているようにうずく左腕に、何を埋め込んだって? 

「なぁに、(にお)の為に研究しておったものの副産物じゃ。作ってはみたものの、ほぼ人工物に()げ替えておる(にお)には無用なものだったがな」
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登場人物紹介

白雀(はくじゃく)

下級仕官の四男。戦では「花方」と呼ばれる切り込み隊の一人。

自他ともに認める朴念仁。堅物なくらいに真面目な性格。

新嘗祭の奉納舞ではトリを勤める舞の名手。

鸞(らん)

「久生(くう)」と呼ばれる魂を喰らう無形の神様。

白雀を気に入って自分の食物認定して付き纏う。

相手によって姿形を変えるが、白雀の前では5歳の童の姿でいることが多い。

傲岸不遜で態度がデカい上、戦闘能力も高い。

久生はもともと死者の魂を召し上げる役割を持つが、鸞の場合、生きている者から魂を引っこ抜くこともする。


波武(はむ)

実の名は「大波武」。成人男性を軽々背負える程の大きな白狼の姿の「尸忌(しき)」。

尸忌は、屍を召して地に返す役割を持つ神。

白雀の屍を召し損ねて以降、他に取られないように、何くれと力になる。

鳰(にお)

神に御身を御饌(みけ)に捧げる「夜光杯の儀」の贄にされ、残った右目と脳をビスクの頭部に納めた改造人間。

医術師の梟(きょう)の施療院で働いている。瀕死の白雀を看護した。

阿比(あび)

死者を弔う際に久生を呼び下ろす「謳い」。

屋代に所属しない「流しの謳い」を生業としており、波武、鸞とは古くからの知り合い。

遠仁相手に幾度となく修羅場を潜り抜けている。細かいことは気にしない性格。

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