遠仁の憑坐 3
文字数 796文字
俺は、辛抱強く次の言葉を待った。
「玉造りの杯に……祈念する者と
「………」
「………贄は……生きながらに肉を
「…………」
俺は、息を呑んだ。そのような、
「鳰を贄に捧げた者は、いかような切願を立てたのかは知らぬが………何匹の遠仁が、鳰の肉を千切り取っていったのであろうな……」
「…………」
あまりのことに、俺は覚えず顔を覆った。
「『夜光杯の儀』では、必ず、一つの肉片を残す。肉体の全てを奪われてしまったら、贄は遠仁となり呪いは失敗となるからな。……どういうわけか、鳰は、脳と右の眼球という
二つ
を残した。そしてそれを………、「では……」
遠仁たちは、その
あと一つの贄を追って
鳰の元に寄ってくるというのか。「鳰を……贄に捧げると誓った夜光杯がある限り、遠仁は鳰を追い続ける」
「そんな………。鳰は、永遠に遠仁に追われ続けられねばならないのか? ……鳰を救うには一体どうすれば!」
俺は阿比の目をひたと見据えた。
「やはり……貴殿は真っ直ぐな漢よの………」
阿比は眉を曇らせた。
「いずれにせよ、夜光杯を回収せねばなるまいが……方法は二つ」
「………」
「一つは、夜光杯を手に入れてから今の鳰を『
鳰を、殺すか、生かすかの二択。
それも、生かす方の選択は遙かに道が険しそうだ。
「その……『夜光杯の儀』を図ったものは誰なのだ?」
俺の問いに、阿比は瞑目して首を横に振った。
「波武が、どこで鳰を拾ったのか、語ることが出来ればよいのだがな」