射干玉 8
文字数 1,206文字
黒いワカメは一旦引いたが、再び体勢を立て直してゆらりと立ち上がった。
「あれ。そうか、そもそも群体であったな」
鸞 は目を見開いて面白がった。
――それしき効かぬわ!
再びワカメが伸びあがる隙に、鸞はこちらに来て火の後ろに回った。
「白雀、折角立ててくれた火だが、ちょいと使わせてもらうぞ」
鳳 が翼を広げるかのように両腕をひらりを広げた鸞は、風を送るように煽った。熱を孕んだ風が黒いワカメに吹き付ける。
――何の!
伸びあがった黒いワカメが、いきなり動きを停めた。
中央からしおしおと縮み始める。
「思った通り、乾燥には弱いようだの」
乾燥ワカメになったのう、と鸞は感心している。
「ま、地べたは雨で湿っておる故、直ぐ戻ってしまうかもしれぬがな。きりが無いわ」
不利であるはずなのに、鸞は楽しそうだ。
「これだけ、髪に執着してるのであれば……さては当たりだな。のう? 白雀」
鸞に目配せされて、俺はハッと気が付いた。
懐に忍ばせていた合口を手にする。
――ええい! オレを無視するな!
黒いワカメは乾燥して動きが悪くなった部分だけポイポイと地面に放ると、無事だった部分だけで体勢を立て直した。
「アレは、吾の髪にしか執着がないようだ。隙を見てぶった切ってやれ」
鸞は片目をつぶって見せると、再び熱風を黒いワカメに送った。
俺はワカメの脇をぐるりと反対側に回り、再び伸びあがったタイミングでワカメの真ん中を合口で撫で斬りにした。
切り口の隙間でキラリと光った青色い玉にすかさず左手を翳す。
――ごわあああ! 何が起きた!
青白い玉が丹い光に包まれて俺の掌に吸い込まれると、立ち上がっていた黒いワカメはバラバラに崩れてドチャドチャと音を立てて積み上がった。
「なんだこいつ。ハゲをこじらせて亡 うなったのか? そんなの聞いたことないぞ」
鸞はそろそろと寄ってくると、黒いワカメの小山を首を傾げて眺めた。
「まぁ……ハゲを理由に女子に拒絶されたとでも思うて悲観したのであろう」
俺は手の内に残った一房の柔らかそうな毛束を鸞に見せた。
愛 いのう、と鸞は目を細めて微笑んだ。
「俺の経験から言うとだが……」
毛束を他の鳰の肉を詰めている荷に仕舞いながら呟く。
「禿頭 の上長の周りには、案外と女子 が絶えぬように思うたが。ほれ、『英雄よく色を好む』というではないか」
鸞が俺に向いた。
「それは男気ムンムンの奴というのは得てして
「……それはつまり」
「モテないのはハゲ以前の問題、という証左であろう?」
そう……なのか?
俺は瞬いて考え込んだ。
「一方で、中身を知らねばハゲはモテぬというのも事実ではある」
「では、ダメではないか」
「だがな、中身は外に滲み出るモノよ。主など黙っていても美味そうな匂いがたつ」
鸞はニンマリと笑った。
洞の中に斜めに陽が射した。
いつの間にか雨は止んでいた。
「あれ。そうか、そもそも群体であったな」
――それしき効かぬわ!
再びワカメが伸びあがる隙に、鸞はこちらに来て火の後ろに回った。
「白雀、折角立ててくれた火だが、ちょいと使わせてもらうぞ」
――何の!
伸びあがった黒いワカメが、いきなり動きを停めた。
中央からしおしおと縮み始める。
「思った通り、乾燥には弱いようだの」
乾燥ワカメになったのう、と鸞は感心している。
「ま、地べたは雨で湿っておる故、直ぐ戻ってしまうかもしれぬがな。きりが無いわ」
不利であるはずなのに、鸞は楽しそうだ。
「これだけ、髪に執着してるのであれば……さては当たりだな。のう? 白雀」
鸞に目配せされて、俺はハッと気が付いた。
懐に忍ばせていた合口を手にする。
――ええい! オレを無視するな!
黒いワカメは乾燥して動きが悪くなった部分だけポイポイと地面に放ると、無事だった部分だけで体勢を立て直した。
「アレは、吾の髪にしか執着がないようだ。隙を見てぶった切ってやれ」
鸞は片目をつぶって見せると、再び熱風を黒いワカメに送った。
俺はワカメの脇をぐるりと反対側に回り、再び伸びあがったタイミングでワカメの真ん中を合口で撫で斬りにした。
切り口の隙間でキラリと光った青色い玉にすかさず左手を翳す。
――ごわあああ! 何が起きた!
青白い玉が丹い光に包まれて俺の掌に吸い込まれると、立ち上がっていた黒いワカメはバラバラに崩れてドチャドチャと音を立てて積み上がった。
「なんだこいつ。ハゲをこじらせて
鸞はそろそろと寄ってくると、黒いワカメの小山を首を傾げて眺めた。
「まぁ……ハゲを理由に女子に拒絶されたとでも思うて悲観したのであろう」
俺は手の内に残った一房の柔らかそうな毛束を鸞に見せた。
「俺の経験から言うとだが……」
毛束を他の鳰の肉を詰めている荷に仕舞いながら呟く。
「
鸞が俺に向いた。
「それは男気ムンムンの奴というのは得てして
ハゲがち
であるからよ。女子はハゲに寄るわけではなく男気に寄っておるのよ」「……それはつまり」
「モテないのはハゲ以前の問題、という証左であろう?」
そう……なのか?
俺は瞬いて考え込んだ。
「一方で、中身を知らねばハゲはモテぬというのも事実ではある」
「では、ダメではないか」
「だがな、中身は外に滲み出るモノよ。主など黙っていても美味そうな匂いがたつ」
鸞はニンマリと笑った。
洞の中に斜めに陽が射した。
いつの間にか雨は止んでいた。