餓鬼の飯 7

文字数 819文字

「待って! 此処であんたが出てったら、蓮角に知れてしまう!」
「いや、でも、野良の久生にまで招集がかかるということは、遠仁絡みであることは確実! 鳰の肉と関係があるかもしれぬ!」
「だったら、鸞に任せればよいでしょう?」
「鸞たち久生は遠仁を好まぬ! 遠仁が出たら喰えるのは俺だけだ!」
「主ら! ちと! 声がデカい! ちいと抑えぬか!」
 雎鳩に鸞と共に出張ると話をしたところ、此れだ。雎鳩に全力で押しとどめられて、言い争いになってしまった。
 黙って行けばよかったか? でも、それでは俺を探されてしまう。精鋭たちにも言い訳が立たぬ。

「あーあ! バレたぞ!」
 鸞の声に、ハッとして戸口を見たら、精鋭らが頭を連ねて目を丸くしていた。
「雎鳩様と痴話喧嘩かと思うたら……」
「何ぞエライことに……」
「鶉ちゃんって、遠仁退治できる人だったのね……」
「それは隠し置かなくては苛められてしまう……」
 俺と雎鳩も固まってしまった。
「……ふぁ?」
「………ええ?」
 戸口に居た精鋭らが、わっと走り寄ってきた。
「ただのお人でない方に惚れて仕舞われるとは、雎鳩様も罪深い」
「それでは隠し置きたくなるというモノ」
「我らもお供しますゆえ」
「ええ! 鶉ちゃんは私たちが確実に若様から護ります」
 何を勘違いしたのか? 精鋭まで引き連れて行ったら益々目立つでは無いか!
「ええい! 事態は切迫しておるでな! 吾は先に行っておるぞ!」
 鸞が衆人環視も構わず、シュンと姿を消した。
「まぁ! 鸞ちゃんが消えたわっ!」
「これは本物だ!」
「すごいすごい!」
「ねぇ? どこに行けばいいの? 馬を用意するわっ」
 余りのことに、俺も雎鳩も茫然としてしまう。
「……あ、ああ、屋代へ……」
 俺が呟くと、精鋭たちは準備に散った。
「……もう、なるように成れ、だわ」
「うむ……」
 こうなってはどうしようもない。
「ねぇ、白雀?」
「ん?」
「せめて、女装は解いて行ったら?」
「……だな」
 俺は作り物の乳を見下ろした。
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登場人物紹介

白雀(はくじゃく)

下級仕官の四男。戦では「花方」と呼ばれる切り込み隊の一人。

自他ともに認める朴念仁。堅物なくらいに真面目な性格。

新嘗祭の奉納舞ではトリを勤める舞の名手。

鸞(らん)

「久生(くう)」と呼ばれる魂を喰らう無形の神様。

白雀を気に入って自分の食物認定して付き纏う。

相手によって姿形を変えるが、白雀の前では5歳の童の姿でいることが多い。

傲岸不遜で態度がデカい上、戦闘能力も高い。

久生はもともと死者の魂を召し上げる役割を持つが、鸞の場合、生きている者から魂を引っこ抜くこともする。


波武(はむ)

実の名は「大波武」。成人男性を軽々背負える程の大きな白狼の姿の「尸忌(しき)」。

尸忌は、屍を召して地に返す役割を持つ神。

白雀の屍を召し損ねて以降、他に取られないように、何くれと力になる。

鳰(にお)

神に御身を御饌(みけ)に捧げる「夜光杯の儀」の贄にされ、残った右目と脳をビスクの頭部に納めた改造人間。

医術師の梟(きょう)の施療院で働いている。瀕死の白雀を看護した。

阿比(あび)

死者を弔う際に久生を呼び下ろす「謳い」。

屋代に所属しない「流しの謳い」を生業としており、波武、鸞とは古くからの知り合い。

遠仁相手に幾度となく修羅場を潜り抜けている。細かいことは気にしない性格。

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