業鏡 6
文字数 706文字
鴫の伴の者が俺の元同僚であったことを話すと、梟は、かような巡り合わせもあるのだな、と驚いた。
「それにしても面妖なことじゃ……」
梟は腕を組んで大きく息を吐いた。
「儂の見立てでは、鴫殿の目は治っておらぬ」
「なんと! しかし、計里の話では治療の甲斐あって治ったようだと……」
「否。アレは……見えておらぬな」
なのに、周囲が「甲斐あって治ったようだ」いい、と本人は「見えないものが見えている」というのは、いかなることなのか。
「普通に見えるようになるのか?」
「うむ。見えぬ理由は目の濁りだけであるから、こちらで治療は出来る。ただ、今『見えている』というのがどうもおかしい」
ふむ。不思議な話もあるものだ。
俺は梟と共に仕上げた料理を持って離れへ運んだ。
内にいた計里が配膳を手伝ってくれた。
部屋の奥に控えていた高齢のご婦人が、上品に微笑んで頭を下げる。
あのお方が鴫様か……。
こちらも丁寧に頭を下げる。
と、左腕がズキリと痛んだ。思わず真顔に戻る。
俺の様子に気付いた梟が、さりげなく部屋を見回した。
「どうしたのだ?」
離れを出てから梟が俺に訊いた。
「仔細は分からぬが、鴫様の顔を見たら左腕が痛んだのだ」
「ふむ……」
庭先に目を移すと、
警戒している様子は微塵もない。
どういうことなんだ?
「よくわからぬが、気にはなるな」
梟は後ろ頭を掻いた。
「念のため、明日の処置をお主も手伝うてくれぬか?」
「……承知した」
俺は離れの戸口に振り向きながら、左の腕を撫でた。