禁色の糸 5
文字数 518文字
城下。
式部大輔 の屋敷。
春も盛りとなり、とりどりの花に彩られた庭に烏衣 は佇んでいた。石橋を架けた曲水に姿を映し、物陰からもたらされる便りに耳を傾ける。
「……ほう、今年は蘇芳 の反物は手に入らぬと」
さして気落ちした風でもなく視線を巡らせる。
「……それは、確かか?」
爪紅に彩られた指を口元に当てると、しばし思いを巡らせて当てもなくふらふらと行ったり来たりした。やがて、ふいと顔を上げ、口端をにぃと引き上げた。
「雎鳩 を突いても、なんの便りも得られなんだが……蓮角様の言うとおりであったなぁ。どうやら、妾に運が向いてきたような」
衣の裾をひらりと翻すと物陰に潜んでいる者に命じた。
「蓮角様にもお伝えしいや。……いずれ、姿を見せよう、とな」
物陰の気配が消え、烏衣は、ほぅと熱い溜息を付いた。
誠の名は、白雀と申すのか。
かつては先鋒の花であったと。
戦禍で負うた瑕疵故に、引いたと聞いたが……あの容姿、その瑕疵すら彩に過ぎぬ。
引いた上に、故 有って咎人 となった為、捕えたら妾の好きにしてよい、と蓮角殿から墨付きを戴いた。
雎鳩が文句を言って来たら、咎人を匿ったと問い詰めればよい。
さても、いつ城下に戻ろうや。
愉しみ過ぎてゾクゾクする。
春も盛りとなり、とりどりの花に彩られた庭に
「……ほう、今年は
さして気落ちした風でもなく視線を巡らせる。
「……それは、確かか?」
爪紅に彩られた指を口元に当てると、しばし思いを巡らせて当てもなくふらふらと行ったり来たりした。やがて、ふいと顔を上げ、口端をにぃと引き上げた。
「
衣の裾をひらりと翻すと物陰に潜んでいる者に命じた。
「蓮角様にもお伝えしいや。……いずれ、姿を見せよう、とな」
物陰の気配が消え、烏衣は、ほぅと熱い溜息を付いた。
誠の名は、白雀と申すのか。
かつては先鋒の花であったと。
戦禍で負うた瑕疵故に、引いたと聞いたが……あの容姿、その瑕疵すら彩に過ぎぬ。
引いた上に、
雎鳩が文句を言って来たら、咎人を匿ったと問い詰めればよい。
さても、いつ城下に戻ろうや。
愉しみ過ぎてゾクゾクする。