拾われたもの 7

文字数 387文字

 ところで、こちらが動けぬ間に戦況はどう動いたのだろうか。

「……状況は?」
「日が落ちて両軍一旦は引き上げたものの、前線は只今膠着状態とお見受けいたします。明日が山かと……」

 頭を下げたまま、阿比(あび)が答えた。

 長引くほどにこちらが不利だ。
 膠着まで持ってこられたということは、ある程度、あちらの力を削ぐことは出来たのか。

 後は……こちらにどれ程の戦力が残っているのか。

 ふいに、遠く、狼の遠吠えが聞こえた。
 阿比(あび)が顔を上げて耳を澄ます。
 先程ここまで送ってくれた(にお)波武(はむ)が胸に去来した。

 夕闇がせまっていた。
 (きょう)が心配していたが、無事に帰り着いたのだろうか。

 気づかわし気に愁眉を作った阿比(あび)は、失礼、と頭を下げて辞去した。

 何がおきたのか。

 自由に動けない身が口惜しい。
 舌打ちしたい思いであったが、次第に意識の(とばり)が下りてきたのを感じた。

 どうやら、薬が、……効いてきたようだ。
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登場人物紹介

白雀(はくじゃく)

下級仕官の四男。戦では「花方」と呼ばれる切り込み隊の一人。

自他ともに認める朴念仁。堅物なくらいに真面目な性格。

新嘗祭の奉納舞ではトリを勤める舞の名手。

鸞(らん)

「久生(くう)」と呼ばれる魂を喰らう無形の神様。

白雀を気に入って自分の食物認定して付き纏う。

相手によって姿形を変えるが、白雀の前では5歳の童の姿でいることが多い。

傲岸不遜で態度がデカい上、戦闘能力も高い。

久生はもともと死者の魂を召し上げる役割を持つが、鸞の場合、生きている者から魂を引っこ抜くこともする。


波武(はむ)

実の名は「大波武」。成人男性を軽々背負える程の大きな白狼の姿の「尸忌(しき)」。

尸忌は、屍を召して地に返す役割を持つ神。

白雀の屍を召し損ねて以降、他に取られないように、何くれと力になる。

鳰(にお)

神に御身を御饌(みけ)に捧げる「夜光杯の儀」の贄にされ、残った右目と脳をビスクの頭部に納めた改造人間。

医術師の梟(きょう)の施療院で働いている。瀕死の白雀を看護した。

阿比(あび)

死者を弔う際に久生を呼び下ろす「謳い」。

屋代に所属しない「流しの謳い」を生業としており、波武、鸞とは古くからの知り合い。

遠仁相手に幾度となく修羅場を潜り抜けている。細かいことは気にしない性格。

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