掌(たなごころ)の月 5
文字数 882文字
まぁ……予測はしていた。そうであろうよ。
「あのお方は、なかなかに苦労をされた御仁であるよ」
手の内で湯呑を弄びながら、梟は語った。命とは言え、『丹』の研究をしていた梟。当初は梟も充分共感を得るだけの説得力のある命であったらしい。
「御母君は前国主殿の第二婦人でなぁ……、鵠殿の嫡位は、もともとあまり高い方では無かったのじゃ。それが、先の疱瘡の流行りで母君を亡くされ、母方の後ろ盾が弱くなった。
俺は醜聞の類にあまり興味の無い方だ。政争に絡むような立ち位置からはかなり遠いところに居たので、雲上人の私生活など関係が無い。どこの
「嫡位上位の異母兄殿が疱瘡で去られたり、不幸な事故で亡くされたりして、成人されて大分してから国主殿として現在の位置に付かれたのだ。御母君や兄上に先立たれて、
梟は一旦言葉を切って、黙した。
「いつのまにやら『不死不滅』の研究になっておった。どこで……変わってしまったのであろうなぁ」
どうにも抗えぬ「病」という存在に打ち勝つには「不死不滅」であることが究極の策なのだと、そう国主殿は思い至った……ということなのか。
「鳰の移植は今夜から始めるのか?」
俺はあえて話題を変えた。
梟は、はっと顔を上げて俺を見た。
「ああ。善は急げと言うしな。あのままの肉塊で置いていても仕方がない。繋げられるのであれば早々に繋げてやろうよ」
「鳰の……手か」
どんな感触なのであろうな。
厨の方から聞こえてくる鳰と鸞のおしゃべりに耳を傾けながら、俺はふっと息を吐いた。