掌(たなごころ)の月 10
文字数 726文字
俺が城下に戻ると聞いて、鳰 は微妙に態度を渋った。
そんなに急 かなくても良いではないか、と言うのだ。
「済まぬな。俺に俄然やる気が出てしまったのだ」
ただ鳰に手が付いただけでこんなに気持ちが逸 るのだ。
もっともっとと欲も出る。
(御無理はなさいますな。急いてはなんとやらと申します。私は、ただただ、白雀殿の身を案じておるのです。蓮角とやらに追われている状況なのも変わらないのでございましょう)
「それはそうであるが、いつまでなどと申していては先に進めぬ」
「良いわ!吾 もコヤツに加勢する故、案ずるな!」
鸞 が偉そうに言い放つ。
いや、まぁ、充分に心強い加勢なのではあるが……。
俺と鳰はふんぞり返っている童子を見下ろした。
その成りでおられると、何とも言い難い。
「鳰のことは波武に任せたぞ! 粗相があったら承知せぬからな!」
偉そうな鸞に、波武は眉間に皺を寄せてワフゥと小さく吠える。
「白雀殿」
奥から梟 が出てきた。何かを手にしている。
「元武人の主が丸腰であるのが気になっての。これを……」
梟が布袋から取り出したのは、合口 だった。簡素な黒漆の鞘に収まった刀身は小ぶりながらもゆったりと湾 れた波紋を描き、それなりの刀工の作と見えた。
これは、と梟を見ると、僅かに寂しさを湛えた微笑みを浮かべて語りだした。
「これはもともと娘の守り刀として誂えたものだ。娘亡き今は、仕舞い込んだままであったが、チキンと刃も入っておる。先日研ぎ直しておいた。どうか使ってやってくだされ」
「ありがたい」
俺は合口を布袋ごと押し頂いて、帯の間に刺した。
「また、取り戻したら戻ってくる」
鳰の温かい手を取った。
つい、頬を寄せたくなるのを抑える。
まだ、俺の仕事は始まったばかりだ。
そんなに
「済まぬな。俺に俄然やる気が出てしまったのだ」
ただ鳰に手が付いただけでこんなに気持ちが
もっともっとと欲も出る。
(御無理はなさいますな。急いてはなんとやらと申します。私は、ただただ、白雀殿の身を案じておるのです。蓮角とやらに追われている状況なのも変わらないのでございましょう)
「それはそうであるが、いつまでなどと申していては先に進めぬ」
「良いわ!
いや、まぁ、充分に心強い加勢なのではあるが……。
俺と鳰はふんぞり返っている童子を見下ろした。
その成りでおられると、何とも言い難い。
「鳰のことは波武に任せたぞ! 粗相があったら承知せぬからな!」
偉そうな鸞に、波武は眉間に皺を寄せてワフゥと小さく吠える。
「白雀殿」
奥から
「元武人の主が丸腰であるのが気になっての。これを……」
梟が布袋から取り出したのは、
これは、と梟を見ると、僅かに寂しさを湛えた微笑みを浮かべて語りだした。
「これはもともと娘の守り刀として誂えたものだ。娘亡き今は、仕舞い込んだままであったが、チキンと刃も入っておる。先日研ぎ直しておいた。どうか使ってやってくだされ」
「ありがたい」
俺は合口を布袋ごと押し頂いて、帯の間に刺した。
「また、取り戻したら戻ってくる」
鳰の温かい手を取った。
つい、頬を寄せたくなるのを抑える。
まだ、俺の仕事は始まったばかりだ。