序 2

文字数 568文字

 俺は半農の貧しい下級士官の四男坊だった。

 兄二人は仕官していたが、大分前にスズメの涙程の恩給と共に帰ってきた。姉は隣村へ嫁ぎ、家には家督を継いだすぐ上の兄と、弟が一人いた。
 先の戦で隻腕(せきわん)となった父は、名ばかりの昇級と引き換えに退役し、母と共に畑仕事に明け暮れる日々を送っていた。兄と俺は、仕官してそれぞれ別の部隊に籍を置いていた。

 貧しいながらもまぁ何とか暮らしていたが、先の冷夏でここら一帯の作高がガクンと下がった。国内の市場は一気に物が不足し、日々の糧にも困窮する有様となった。

が悪くて窮した国主は、ここより幾分か状態の良かった隣国へ攻め入ることにしたらしい。兄も俺も従軍することになった。

 隊の中でもそこそこ腕は立つ方だと自負していた俺だったが、所詮それは不測も想定内の整えられた環境下で手合わせをしてこそ生きたもの。戦場の無差別乱打の渦中にあって、思惑通りに行くわけもなく。腕に任せて深入りしたがために撤退の機を逃した。
 思わぬ反撃にあって敵陣の中、身動きが取れなくなっていたところを、間一髪、味方の騎馬に拾われた。

 何故、あそこで救われてしまったのだろう。騎手は見知らぬ者であった。仮に自陣に戻れたとて、直ぐ復帰できるような程度の手負いではないことは判っていた。一矢報いて露と消えるのもまた、悪くなかったのではないか。
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登場人物紹介

白雀(はくじゃく)

下級仕官の四男。戦では「花方」と呼ばれる切り込み隊の一人。

自他ともに認める朴念仁。堅物なくらいに真面目な性格。

新嘗祭の奉納舞ではトリを勤める舞の名手。

鸞(らん)

「久生(くう)」と呼ばれる魂を喰らう無形の神様。

白雀を気に入って自分の食物認定して付き纏う。

相手によって姿形を変えるが、白雀の前では5歳の童の姿でいることが多い。

傲岸不遜で態度がデカい上、戦闘能力も高い。

久生はもともと死者の魂を召し上げる役割を持つが、鸞の場合、生きている者から魂を引っこ抜くこともする。


波武(はむ)

実の名は「大波武」。成人男性を軽々背負える程の大きな白狼の姿の「尸忌(しき)」。

尸忌は、屍を召して地に返す役割を持つ神。

白雀の屍を召し損ねて以降、他に取られないように、何くれと力になる。

鳰(にお)

神に御身を御饌(みけ)に捧げる「夜光杯の儀」の贄にされ、残った右目と脳をビスクの頭部に納めた改造人間。

医術師の梟(きょう)の施療院で働いている。瀕死の白雀を看護した。

阿比(あび)

死者を弔う際に久生を呼び下ろす「謳い」。

屋代に所属しない「流しの謳い」を生業としており、波武、鸞とは古くからの知り合い。

遠仁相手に幾度となく修羅場を潜り抜けている。細かいことは気にしない性格。

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