汲めども尽きぬ 9
文字数 797文字
「この町の者は、琴弾様のおかげで此処まで栄えたが、命を賭したババ抜きをしているようなものよのぅ。気の毒に……」
鸞は頬を覆って溜息を付いた。
今の両替屋の者が、どのような願を掛けたのかは知らぬが、それが叶ってしまえば次を要求される。願いが途切れた時、最後に琴弾様を握っていたものが殺される。
市井の者らが努めて幸せそうにしていたのは、次に琴弾様に目を付けられないようにという防衛か。
「厄災が突然来たのであれば、突然去るのもまた有りか」
俺の呟きに、猿子 が眉間に皺を寄せた。
「其の方ら、一体何をお考えなのか?」
「俺はただ、必要なものを取りに来ただけなのだが、どうやら琴弾様と渡り合わねばならぬような気配だな。下手をすると、琴弾様を喰わねばならぬかも……」
「……貴方様は一体……?」
猿子は改まって俺の前で威儀を正した。
「いや、俺は、ニンゲンよ?」
多分。
不意に庵の蔀 の隙間から、ふよふよと青白い玉が入り込んできた。俺は左掌を覆っていた包帯をくるくるとほどくと、左の手でその玉をひょいとつかんで握りつぶすように手の内に飲みこんだ。
猿子が目を丸くする。
「しばし、他言無用な」
俺は猿子に笑みを向けて自分の口に人差し指を当てた。
「莫ー迦! 何を愛嬌ふりまいておるのやら」
隣から鸞が流し目を呉れた。
「愛嬌じゃあないわ! 遠仁が入ってきたんだぞ! 琴弾様に言いつけられるかもしれぬではないか」
「違うわ! その仕草じゃ! 可愛く口元に指をあてるなど!」
「可愛く? 何処がだ? そんなつもりはないわ!」
つい売り言葉に買い言葉で鸞と言いあっていると、猿子が冷汗をかきかき、あのー、と声を掛けてきた。
「お二人は、一体どういう御関係で……」
鸞が俺を指し、満面の笑みで答える。
「これは妾の食いものじゃ」
それを受けて、俺も真面目に答える。
「どうやらそういうことらしい」
猿子は益々混乱を極めた顔をした。
鸞は頬を覆って溜息を付いた。
今の両替屋の者が、どのような願を掛けたのかは知らぬが、それが叶ってしまえば次を要求される。願いが途切れた時、最後に琴弾様を握っていたものが殺される。
市井の者らが努めて幸せそうにしていたのは、次に琴弾様に目を付けられないようにという防衛か。
「厄災が突然来たのであれば、突然去るのもまた有りか」
俺の呟きに、
「其の方ら、一体何をお考えなのか?」
「俺はただ、必要なものを取りに来ただけなのだが、どうやら琴弾様と渡り合わねばならぬような気配だな。下手をすると、琴弾様を喰わねばならぬかも……」
「……貴方様は一体……?」
猿子は改まって俺の前で威儀を正した。
「いや、俺は、ニンゲンよ?」
多分。
不意に庵の
猿子が目を丸くする。
「しばし、他言無用な」
俺は猿子に笑みを向けて自分の口に人差し指を当てた。
「莫ー迦! 何を愛嬌ふりまいておるのやら」
隣から鸞が流し目を呉れた。
「愛嬌じゃあないわ! 遠仁が入ってきたんだぞ! 琴弾様に言いつけられるかもしれぬではないか」
「違うわ! その仕草じゃ! 可愛く口元に指をあてるなど!」
「可愛く? 何処がだ? そんなつもりはないわ!」
つい売り言葉に買い言葉で鸞と言いあっていると、猿子が冷汗をかきかき、あのー、と声を掛けてきた。
「お二人は、一体どういう御関係で……」
鸞が俺を指し、満面の笑みで答える。
「これは妾の食いものじゃ」
それを受けて、俺も真面目に答える。
「どうやらそういうことらしい」
猿子は益々混乱を極めた顔をした。