禁色の糸 2
文字数 1,130文字
養蚕を営んでいる者らは、今時分、収穫した繭の一部から蛾を羽化させて採集した卵を木に戻すという作業をしている頃だ。
「俺がまだ子供の頃な、楠に付いていた三月虫の幼虫を近在の
「ああああ……皆まで言わずともわかるわ! 盛大に悲鳴を上げられた挙句、水か塩かぶっかけられたのだろう?」
「すごいな、鸞。何故わかる?」
「主は朴念仁ゆえ知らぬのだろうがな! 女子には虫が平気な者と嫌いな者の二種類がおるのよ! 前者は希少種だ!」
「そうかー。母は養蚕の経験があったので蚕とみると可愛がっておったからな。まさか、かような目に会うとは思わなんだ」
「……主、もしかすると、虫以外でも似たようなことをせなんだか?」
「青い
びっき
の話か?」「したのか!」
「小さい奴はカワイイだろうと思うたのだ」
「悪気がないだけ
春の支度で忙しい村々は駆け足で通り過ぎ、宿屋のある町では補給をして、俺たちは着実に目的の場所へ近付いていった。
途中から道は見覚えのある景色になった。終に、街道と合流したのだ。とはいえ、この先は
村に着いたら、まず村の長に話を聞けと言っていたか……。
俺は鸞と共に、村のひときわ小高い丘の上に立つ屋敷の門を叩いた。奥から出てきた若い男に阿比に頼まれて来たという話をすると、どうやらピンときたようで直ぐに村の長のところへと案内してくれた。
屋敷の周りをぐるりと裏へ廻ると、広い敷地で数人の男女が忙しなく立ち働いていた。浅く広い引き出しのような枠の並ぶ台の上で何やら紙を仕訳けたり切り分けたりしている。紙に付いているのは虫の卵か。これから、若葉の出た木の枝へと結ぶのであろう。
「お待たせして済まぬ。我は、この村の代表を務める
振り返ると、殆ど白髪になった総髪を後ろに束ねた色黒の翁が立っていた。俺と鸞も丁寧に挨拶を返し、早速と状況の説明を促した。