夏椿の森 1
文字数 688文字
俺は、はね散らかした黒い吐瀉物まみれの体を起こしてふらりと立ち上がった。見れば、ここは真っ黒な土に覆われた崗 のような場所だった。いたるところに白い花を付けた樹が生い茂り、地面にはそっくりまるごと落ちた白い花が霰 模様を描いていた。木漏れ日が光の網を作って揺れている。
俺は、この光景を知っている。
あの、……意識の混濁した、死の瀬戸際だ。
水底に落ちていく、あの感覚だ……。
「ついてこい。ここを下ったところに沢がある」
波武 が身をかわした。
俺は夢見心地の茫然とした様で、その後に続いた。
果たして丘の麓には清涼な水を湛えた沢があった。
血と汗と、吐瀉物と、何もかもにまみれて気持ちが悪かったので、俺は躊躇わず沢の水に足をつけた。
そこで、はっと気が付いて懐に手を入れた。俺が手に入れたものは……。
小さな肉色の饅頭が二つ……?
「なんだ……これは?」
両手の上でコロリと転がして、ようやくそれが何かに気が付いた。
赤子の、握りこぶしだ。
手の内に収まるほど、小さな……。
こんな…………小さな。
俺は、声を詰まらせて固まった。
こんな、小さな幼子を贄に捧げたと言うのか。
この大きさなれば、未だ乳飲み子だ。
それでは、己を贄にささげた相手を、己が雌雄どちらかを知らぬでも不思議はない。
なんと……いたわしい。
透明な膜越しに、柔らかい拳をそっと撫でて、ふと、プリプリ怒っていた鳰を思い出して笑みが漏 れた。こんなに愛 い肉なら、愛 でずにおられぬだろうよ。
「鳰 の言うとおり、気持ちの悪い奴だな。ほれ、ここにそれを置いて体を洗え」
波武が大きな朴 の葉を咥えてやってきた。
俺は、この光景を知っている。
あの、……意識の混濁した、死の瀬戸際だ。
水底に落ちていく、あの感覚だ……。
「ついてこい。ここを下ったところに沢がある」
俺は夢見心地の茫然とした様で、その後に続いた。
果たして丘の麓には清涼な水を湛えた沢があった。
血と汗と、吐瀉物と、何もかもにまみれて気持ちが悪かったので、俺は躊躇わず沢の水に足をつけた。
そこで、はっと気が付いて懐に手を入れた。俺が手に入れたものは……。
小さな肉色の饅頭が二つ……?
「なんだ……これは?」
両手の上でコロリと転がして、ようやくそれが何かに気が付いた。
赤子の、握りこぶしだ。
手の内に収まるほど、小さな……。
こんな…………小さな。
俺は、声を詰まらせて固まった。
こんな、小さな幼子を贄に捧げたと言うのか。
この大きさなれば、未だ乳飲み子だ。
それでは、己を贄にささげた相手を、己が雌雄どちらかを知らぬでも不思議はない。
なんと……いたわしい。
透明な膜越しに、柔らかい拳をそっと撫でて、ふと、プリプリ怒っていた鳰を思い出して笑みが
「
波武が大きな