賜物 8

文字数 906文字

 翌朝、精鋭の元に出向くと、既に雎鳩が来ていて盛り上がっていた。昨日の今日で、雎鳩に対してどう接してよいのやら戸惑っているうちに水恋のペースに巻き込まれる。
「ねね! 雎鳩様も肝試しに興味があるんですって! 今夜みんなで行きましょうよ!」
「一応魔除けのお香とかお守りとか持ってった方がいいかしら。(かね)とかの方がいい?」
 翡翠が顎に手を当てて首を傾げている。
「いざというときの為に、得物も準備しておくべきだな」
 鶹が腕組みをして頷いていると、魚虎が、とんでもない! と声を上げる。
「だって、頸無し馬を止めようとしたら、蹴り殺されてしまうのでしょう? 恐ろしいわ」 
「太刀も充分『守り』であろう?」
 シレッと鶹が言い返す。
 守りか、と雎鳩が呟く。
「じゃ、私は短弓と(うつぼ)を持って行こうっと」
「ふうん。それじゃ、私も(こん)とか持って行こうかなー?」
 なんと! 水恋まで!
「そうね。丸腰でいったら座る胆も座れないわね」
 魚虎! その納得の仕方は解せぬ! 
「それでは、肝試しどころか、どうにも()る気満々では……」
 俺は冷汗をかきながら精鋭たちを見回した。
「まぁ! 花も恥じらう乙女たちが集うて行くのですよ? そのような物騒なことはありませぬ」
 シナを作る翡翠に見下ろされて、俺は黙った。
 ここは何を言っても無駄だ。
「わあ! 楽しみだなぁ!」
 鸞が目をキラキラさせながら、胸の前で握りこぶしを固めた。
 いう程か?
 俺は別の意味で不安になってきたぞ。俺も(うかり)を持って行くか。

 夕食後に屋敷を出立すると、とっぷり暮れた頃に御陵まで着くであろうということで準備を始めた。俺と鸞は、厨で携帯用の水筒の準備をすることにした。
「なぁ、鸞……」
「ん? なんであるか?」
 瓢箪の中を濯ぎながら、鸞が返事をする。
「『肝試し』って、そもそも何であったか?」
「己の胆力を試すものであろう?」
「……そも、女子が率先して企てるモノではないよな」
「それは、主の偏見というものよ! 案外と女子は現実主義であるからな! ことをはっきりさせたいだけかもしれぬ!」
 うむ、水漏れはしておらぬな、と鸞は瓢箪を並べて頷いた。
 ことを、はっきりねぇ……。一体、何が出るモノやら。 
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登場人物紹介

白雀(はくじゃく)

下級仕官の四男。戦では「花方」と呼ばれる切り込み隊の一人。

自他ともに認める朴念仁。堅物なくらいに真面目な性格。

新嘗祭の奉納舞ではトリを勤める舞の名手。

鸞(らん)

「久生(くう)」と呼ばれる魂を喰らう無形の神様。

白雀を気に入って自分の食物認定して付き纏う。

相手によって姿形を変えるが、白雀の前では5歳の童の姿でいることが多い。

傲岸不遜で態度がデカい上、戦闘能力も高い。

久生はもともと死者の魂を召し上げる役割を持つが、鸞の場合、生きている者から魂を引っこ抜くこともする。


波武(はむ)

実の名は「大波武」。成人男性を軽々背負える程の大きな白狼の姿の「尸忌(しき)」。

尸忌は、屍を召して地に返す役割を持つ神。

白雀の屍を召し損ねて以降、他に取られないように、何くれと力になる。

鳰(にお)

神に御身を御饌(みけ)に捧げる「夜光杯の儀」の贄にされ、残った右目と脳をビスクの頭部に納めた改造人間。

医術師の梟(きょう)の施療院で働いている。瀕死の白雀を看護した。

阿比(あび)

死者を弔う際に久生を呼び下ろす「謳い」。

屋代に所属しない「流しの謳い」を生業としており、波武、鸞とは古くからの知り合い。

遠仁相手に幾度となく修羅場を潜り抜けている。細かいことは気にしない性格。

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