瑞兆 1
文字数 472文字
新嘗の天覧席にて奉納舞を観覧していた若君は、ふいと顔を上げて隣に座している母に声を掛けた。
「先の舞は誠に見事でございました。つきましては、花を添えに参りとうございます」
「ほう。其方も気に入りましたか。花鶏 も腕を上げましたね。妾からも一つ添えましょう」
紅葉の枝に花代を付け、若君に手渡す。
若君は丁寧に母に一礼してから天覧席を離れた。
今年15になる若君は元服を終えたばかり。母に似た優し気な面立 ちと、御付きの学者が舌を巻くほどの聡明さを持ち、城下の民には先行きの楽しみな次期国主として親しまれている。
「波武、ちと、若の様子を見て来ては呉れぬか」
若君を見送った母は、扇子で口元を隠して後ろに控える銀髪の家臣に小声で話しかけた。
家臣はひざまづいて畏 まったまま、ふっと笑みを漏らす。
「鷦鷯 様、お言葉ですが朱雀 殿はもう大人でございますよ。いつまでも心配して追いかけまわしていては厭われます」
「……そうか? 妾にはまだ産毛の生えた雛にしか思えぬよ」
溜息を付いて扇子をヒラヒラさせる鷦鷯に、波武は苦笑して「今日だけですよ」と念を押して席を立った。
「先の舞は誠に見事でございました。つきましては、花を添えに参りとうございます」
「ほう。其方も気に入りましたか。
紅葉の枝に花代を付け、若君に手渡す。
若君は丁寧に母に一礼してから天覧席を離れた。
今年15になる若君は元服を終えたばかり。母に似た優し気な
「波武、ちと、若の様子を見て来ては呉れぬか」
若君を見送った母は、扇子で口元を隠して後ろに控える銀髪の家臣に小声で話しかけた。
家臣はひざまづいて
「
「……そうか? 妾にはまだ産毛の生えた雛にしか思えぬよ」
溜息を付いて扇子をヒラヒラさせる鷦鷯に、波武は苦笑して「今日だけですよ」と念を押して席を立った。