伏魔の巣 3

文字数 411文字

 なんと……。
 俺は肩を落として安堵の息をついた。
 回収する肉は、赤子サイズということだ。

(わー、白雀(はくじゃく)殿、スケベなことを考えておりましたな?)
 鳰が両手で頬を押えて冷やかすような調子でこちらを向いた。
「なっ! 鳰っ! 俺は……」
 慌てて否定すると、鳰は 図星だー! と指さして腹を抱える仕草をした。

 ったく、この、腹の立つ……。

 思いながらも、みるみると自分の顔が赤らむのが判った。

(良かった。白雀殿に最初におっぱい揉まれるかもしれなかった)
「莫迦っ! 鳰が女子(おなご)と決まったわけでは無かろう!」
(わー、()の子だったらもっとヤバかったかも)
 鳰は口を押えて、こちらを見る仕草。
 
 俺は(くずお)れて顔を覆った。
「もー……ヤダ」

「鳰よ、白雀殿をいじるのはそこらで辞めておけ……」
 梟が呆れ顔で助け舟を出した。 

 

 この時点では、誰もがこの後起こる急展開を予想だにしていなかった。
 
 それは、夜半に、国主からの使いが来たことから始まった。
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登場人物紹介

白雀(はくじゃく)

下級仕官の四男。戦では「花方」と呼ばれる切り込み隊の一人。

自他ともに認める朴念仁。堅物なくらいに真面目な性格。

新嘗祭の奉納舞ではトリを勤める舞の名手。

鸞(らん)

「久生(くう)」と呼ばれる魂を喰らう無形の神様。

白雀を気に入って自分の食物認定して付き纏う。

相手によって姿形を変えるが、白雀の前では5歳の童の姿でいることが多い。

傲岸不遜で態度がデカい上、戦闘能力も高い。

久生はもともと死者の魂を召し上げる役割を持つが、鸞の場合、生きている者から魂を引っこ抜くこともする。


波武(はむ)

実の名は「大波武」。成人男性を軽々背負える程の大きな白狼の姿の「尸忌(しき)」。

尸忌は、屍を召して地に返す役割を持つ神。

白雀の屍を召し損ねて以降、他に取られないように、何くれと力になる。

鳰(にお)

神に御身を御饌(みけ)に捧げる「夜光杯の儀」の贄にされ、残った右目と脳をビスクの頭部に納めた改造人間。

医術師の梟(きょう)の施療院で働いている。瀕死の白雀を看護した。

阿比(あび)

死者を弔う際に久生を呼び下ろす「謳い」。

屋代に所属しない「流しの謳い」を生業としており、波武、鸞とは古くからの知り合い。

遠仁相手に幾度となく修羅場を潜り抜けている。細かいことは気にしない性格。

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