水上の蛍 1
文字数 773文字
数日後、俺は再び安摩の面を付けて雎鳩 の後ろに控えていた。
「あの屋敷は、今、蓮角に徹底マークされてる。あの場の状況を見て何が起きたか察したようね。地下へのルートを塞がれる可能性があるけど、しばらくは近付かない方が懸命だわ」
脇息 に肘を預け、前を向いたまま雎鳩は呟いた。基本、主人と侍従は面と向かって言葉を交わすことはない。俺が安摩の面をつけている時は、仕来 りに倣って、雎鳩は俺を扱う。
「代わりに、といってはなんだけど、別件から情報を得たの。高貴筋の姫君御用達のパワースポットよ。縁結びの庵。あんた、聞いたことある?」
「否」
侍従らしく短く答える。
「でしょうね。私は……行ったことあるけど、そもそもあーゆーのって気休めよ。てゆーか、縁結びの神自体、今、あそこに居やしない。喰われっちゃってるからね」
「は?」
今の返事は完全に「素」だった。
「庵の前に、縁結びの神が住まうと言われている池があるのだけどねー。今住んでるのは、あれ、遠仁よ」
「……」
しばしの間、沈黙が流れる。
「心の準備が出来てるなら、段取りつけるけど? どうかしら」
「諾……と、承ります」
雎鳩は、クスクス笑った。
「そう来なくっちゃね。解ったわ。『雎鳩は、縁結びの神に詣でたい』と、そうアピールしとく」
そう言って立ち上がった雎鳩は、何かを思い出したように、あ、と小さく口にした。
「今回の相手はデカいから、助っ人を呼んでおいた方がいいわ。この間のボクちゃんは呼べるかしら?」
ボクちゃん? もしかすると……鸞 のことか。
「然 り」
「うふふ。じゃあ、追って日取りを伝えるわね。今日は、もう下がっていいわ」
雎鳩は、そう言うと部屋を出て行った。
相変わらず謎な人だ。
何だ、その「別件からの情報」というのは……。
デカいというのは、物理的にか。
「さて……鸞か」
俺はヤレヤレと溜息をついた。
「あの屋敷は、今、蓮角に徹底マークされてる。あの場の状況を見て何が起きたか察したようね。地下へのルートを塞がれる可能性があるけど、しばらくは近付かない方が懸命だわ」
「代わりに、といってはなんだけど、別件から情報を得たの。高貴筋の姫君御用達のパワースポットよ。縁結びの庵。あんた、聞いたことある?」
「否」
侍従らしく短く答える。
「でしょうね。私は……行ったことあるけど、そもそもあーゆーのって気休めよ。てゆーか、縁結びの神自体、今、あそこに居やしない。喰われっちゃってるからね」
「は?」
今の返事は完全に「素」だった。
「庵の前に、縁結びの神が住まうと言われている池があるのだけどねー。今住んでるのは、あれ、遠仁よ」
「……」
しばしの間、沈黙が流れる。
「心の準備が出来てるなら、段取りつけるけど? どうかしら」
「諾……と、承ります」
雎鳩は、クスクス笑った。
「そう来なくっちゃね。解ったわ。『雎鳩は、縁結びの神に詣でたい』と、そうアピールしとく」
そう言って立ち上がった雎鳩は、何かを思い出したように、あ、と小さく口にした。
「今回の相手はデカいから、助っ人を呼んでおいた方がいいわ。この間のボクちゃんは呼べるかしら?」
ボクちゃん? もしかすると……
「
「うふふ。じゃあ、追って日取りを伝えるわね。今日は、もう下がっていいわ」
雎鳩は、そう言うと部屋を出て行った。
相変わらず謎な人だ。
何だ、その「別件からの情報」というのは……。
デカいというのは、物理的にか。
「さて……鸞か」
俺はヤレヤレと溜息をついた。