堕ちた片翼  7

文字数 702文字

「俺は白雀(はくじゃく)という。お前は、……なんだ?」

――オ前モ 血ノ匂イガ スル

「それはそうであろうよ。かつては戦場(いくさば)(はたら)いた者だ」

――面白カッタカ?

「何がだ?」

――人ヲ 斬ルノハ 面白カッタカ?

「……そういう気持ちで人を斬ったことは、無い。ところで、(はな)に戻るが、

?」

――召シ損ナワレタ モノダ

「……遠仁(おに)か」

――ソノ名ハ 慣レヌ

何故(なにゆえ)、刀なぞに憑いている?」

――アノ男ガ 拾ッタカラダ

「拾った?」

 俺は長物を灯火の元に持っていった。

 飾り気のない無骨な刀だった。鞘の鯉口近くに漆で塗りこめた跡があった。灯に透かして見る。何かを……塗りつぶしたようだ。しばらく矯めつ眇めつしていて、ある角度で

が知れた。
 一気に胆が冷えた。
 鷹鸇(ようせん)……のヤツ……。

「抜いても、……よいか」

――()ルカ! 我ヲ! 
――()ルノカ! 良イゾ!
――オ前モ 我ニ ()セラレレバヨイ!

 言われるまま、すらりと刀身を抜いた。
 灯火に刃紋の(にえ)綺羅々々(きらきら)と天空の川のように映えた。
 確かに、……見事だ。
 打ち寄せる波のごとき乱れも美しい。

 だが……、だからと言って……。

「お前は、……鷹鸇に(ほふ)られたのか」

――察シガ 良イノゥ 

「だから、貴奴に……」
 祟っているのか? 

 俺は目を閉じた。
 貴奴は、獣だ。
 いや、獣にも劣る。
 これは……

ではないか。
 戦のどさくさで、貴奴は……。

――オ前ノ 左腕ハ ドウシタ?

「いかような(えにし)か、人ならぬものを喰えるようになった」

――ホウ…… ソノ腕デ 我ヲ 掴マナカッタ事ニ 感謝スルゾ

(いと)われたのが……解ったからな。俺は、意味もなく喰らうほど無作法ではない」

――オ前ノ 心掛ケニ免ジテ 取引ヲ……セヌカ?
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登場人物紹介

白雀(はくじゃく)

下級仕官の四男。戦では「花方」と呼ばれる切り込み隊の一人。

自他ともに認める朴念仁。堅物なくらいに真面目な性格。

新嘗祭の奉納舞ではトリを勤める舞の名手。

鸞(らん)

「久生(くう)」と呼ばれる魂を喰らう無形の神様。

白雀を気に入って自分の食物認定して付き纏う。

相手によって姿形を変えるが、白雀の前では5歳の童の姿でいることが多い。

傲岸不遜で態度がデカい上、戦闘能力も高い。

久生はもともと死者の魂を召し上げる役割を持つが、鸞の場合、生きている者から魂を引っこ抜くこともする。


波武(はむ)

実の名は「大波武」。成人男性を軽々背負える程の大きな白狼の姿の「尸忌(しき)」。

尸忌は、屍を召して地に返す役割を持つ神。

白雀の屍を召し損ねて以降、他に取られないように、何くれと力になる。

鳰(にお)

神に御身を御饌(みけ)に捧げる「夜光杯の儀」の贄にされ、残った右目と脳をビスクの頭部に納めた改造人間。

医術師の梟(きょう)の施療院で働いている。瀕死の白雀を看護した。

阿比(あび)

死者を弔う際に久生を呼び下ろす「謳い」。

屋代に所属しない「流しの謳い」を生業としており、波武、鸞とは古くからの知り合い。

遠仁相手に幾度となく修羅場を潜り抜けている。細かいことは気にしない性格。

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