爪紅 9
文字数 679文字
「峠におったのか……入江」
都は花簪を大事に抱えて蹲った。
小さくなって震えている。
繋がった。ここで……。
入江というのは、娘の名だったのだ。
鷹鸇が盗んだ赤子の母親。
行方知れずになっていた都の娘。
ということは、都は、鳰の祖母に当たるということか……。
「かの御子女は入江様とおっしゃるのだな」
俺が呟くと、都は泣き乱れた顔を上げた。
「入江……だけであったのか?」
「え?」
「赤子は抱いておらなんだか?」
俺は一瞬言葉に詰まった。
都は、鳰の境遇を知らない。
例え血縁であることが解ったとしても、今の状態で鳰は、都は喜ぶだろうか……。
「……お一人であった」
俺はキッパリと答えた。知らぬことにしておくに越したことは無い。
「さようか……」
都は肩を落としてさめざめと涙を流した。
「ああ、でも、入江は帰ってきてくれた。嬉しや……」
再び花簪を抱き込んで小さくなった都は、そのまま糸が切れるようにすぅと倒れた。慌てて身体を支えるのと、侍女が悲鳴を上げて飛んでくるのが一緒だった。
医術者を呼んで診てもらった。どうやら都は感情の波に揺さぶられて気が遠くなっただけのようで、皆、安堵した。都は床にのべるために担ぎ出され、拝殿はシンと静かになった。
ふと見ると、床の上に都の棗が転がったままになっていた。
拾い上げるとシャラと音がする。
俺は鸞と目配せした。
触れてはならぬ都の棗……その中身は一体なんだ?
俺は固唾をのみ、そっと棗の蓋を開けた。
中に入っていたのは、桜貝……と見えたが、違った。
遺体から剥いだ子どもの爪に、綺麗に爪紅を施したものが詰めてあった。
都は花簪を大事に抱えて蹲った。
小さくなって震えている。
繋がった。ここで……。
入江というのは、娘の名だったのだ。
鷹鸇が盗んだ赤子の母親。
行方知れずになっていた都の娘。
ということは、都は、鳰の祖母に当たるということか……。
「かの御子女は入江様とおっしゃるのだな」
俺が呟くと、都は泣き乱れた顔を上げた。
「入江……だけであったのか?」
「え?」
「赤子は抱いておらなんだか?」
俺は一瞬言葉に詰まった。
都は、鳰の境遇を知らない。
例え血縁であることが解ったとしても、今の状態で鳰は、都は喜ぶだろうか……。
「……お一人であった」
俺はキッパリと答えた。知らぬことにしておくに越したことは無い。
「さようか……」
都は肩を落としてさめざめと涙を流した。
「ああ、でも、入江は帰ってきてくれた。嬉しや……」
再び花簪を抱き込んで小さくなった都は、そのまま糸が切れるようにすぅと倒れた。慌てて身体を支えるのと、侍女が悲鳴を上げて飛んでくるのが一緒だった。
医術者を呼んで診てもらった。どうやら都は感情の波に揺さぶられて気が遠くなっただけのようで、皆、安堵した。都は床にのべるために担ぎ出され、拝殿はシンと静かになった。
ふと見ると、床の上に都の棗が転がったままになっていた。
拾い上げるとシャラと音がする。
俺は鸞と目配せした。
触れてはならぬ都の棗……その中身は一体なんだ?
俺は固唾をのみ、そっと棗の蓋を開けた。
中に入っていたのは、桜貝……と見えたが、違った。
遺体から剥いだ子どもの爪に、綺麗に爪紅を施したものが詰めてあった。