乙女心と面目 8
文字数 669文字
「はぁ、阿比 殿の惨 いことよ。この期に及んで不味いものを喰らえと申す……」
阿比の背中から、ヨボヨボと白髪もほつれた媼 が現れた。あなや、惨い惨いと言いながら暗がりの先へとヨロヨロと歩いていく。
「まっこと、質 が悪いのぅ……」
阿比は眉間に力を込めて溜め息をついた。
――これでは私が鸞 をいじめているみたいではないか。
媼の曲がった背が先の暗がりに消えたと思ったら、急に何かを引きちぎるようなブチブチという音がして、何かが阿比の足元に飛んできた。見ると、どうやら大きなカニの脚先のようなものだった。
ついでに何やら生臭いにおいが漂ってくる。
――じめじめすると思ったら、ここは水場の近くであったか。
「うう……酷い様よ………」
袖で顔を覆いながら、媼が戻ってきた。
「いや、鸞よ、大儀であった」
「労っても埋まらぬわ。恨むぞ、阿比!」
袖ごしに睨みつける。
阿比は苦笑いで返した。
「それ、両の鋏になんぞ抱えておったぞ」
鸞が袖の上に抱えていたのは、プクプクした肉色の2本の棒。途中でくの字に折れている。おや、と、阿比の声が漏れた。
「これで手と腕が戻ったということか……」
媼の様である鸞が、目を細めてソレを眺める。
「ああ、あの贄になった子の肉か。きっとまだあるぞ。臭っておる。お腐れはアヤツだけではない」
「まだ居るのか?」
阿比は、目を剥いてあたりを見回した。
――かように遠仁が巣食っているとは、……ここは一体どこなのだ?
鸞は自分の胸のあたりを片袖でさすった。
「儂ゃ、もう喰わんぞ。ああ、気が悪い。次行き会うたヤツは問答無用で食うてやりたいくらいじゃ」
阿比の背中から、ヨボヨボと白髪もほつれた
「まっこと、
阿比は眉間に力を込めて溜め息をついた。
――これでは私が
媼の曲がった背が先の暗がりに消えたと思ったら、急に何かを引きちぎるようなブチブチという音がして、何かが阿比の足元に飛んできた。見ると、どうやら大きなカニの脚先のようなものだった。
ついでに何やら生臭いにおいが漂ってくる。
――じめじめすると思ったら、ここは水場の近くであったか。
「うう……酷い様よ………」
袖で顔を覆いながら、媼が戻ってきた。
「いや、鸞よ、大儀であった」
「労っても埋まらぬわ。恨むぞ、阿比!」
袖ごしに睨みつける。
阿比は苦笑いで返した。
「それ、両の鋏になんぞ抱えておったぞ」
鸞が袖の上に抱えていたのは、プクプクした肉色の2本の棒。途中でくの字に折れている。おや、と、阿比の声が漏れた。
「これで手と腕が戻ったということか……」
媼の様である鸞が、目を細めてソレを眺める。
「ああ、あの贄になった子の肉か。きっとまだあるぞ。臭っておる。お腐れはアヤツだけではない」
「まだ居るのか?」
阿比は、目を剥いてあたりを見回した。
――かように遠仁が巣食っているとは、……ここは一体どこなのだ?
鸞は自分の胸のあたりを片袖でさすった。
「儂ゃ、もう喰わんぞ。ああ、気が悪い。次行き会うたヤツは問答無用で食うてやりたいくらいじゃ」