古き物 3
文字数 1,028文字
いきなり、俺の中の鳰の後ろに茫洋とした時間が口を開けた。俺と出会う前の話だ。俺はただ、己の思いに付き従って鳰の肉を集め、鳰を元の姿に戻してやろうとしていたが、その裏には思いもつかない思惑が渦巻いていたらしい。
雎鳩は残りの有の実を齧り、残った芯を庭に放った。空からサッと鳥が舞い降り、それをさらって飛んでいく。
「波武に恃んだのは『夜光杯の儀の、邪魔をして欲しい』ってこと。おかげで、祈念は不成立。願掛けは力の弱い遠仁 が中途半端に叶える結果になった」
――遠仁ごときが叶えたかどうか、その祈念した者は満足したのかどうか、主は知っているのか?
鸞の考えは、当たりであったのか……。
でも、『夜光杯の儀』の惨 さを厭うのであれば、そもそも儀式自体を阻止せぬか? 不成立が目的と言うのは一体どういうことなのだ?
「何故……邪魔をしようなどと。鵠殿に恨みでも?」
「鵠には何の恨みも無いわ。というか、興味もなかった」
とうとう国主殿は呼び捨てになった。
雎鳩は胡坐の脚を組み換えた。
「鵠が呼び出す相手の方に、用があったんだもの」
「……それは、贄を奉じられる神の方に……ということか?」
「神?」
雎鳩は眉間に皺を寄せると、俺を上目に見た。
「アレを、『神』と言っていいのかしら。久生? 尸忌? 遠仁? 妖? いや、どれにも当てはまらないわ。……ただ、ずっと以前からこの土地に居た。この城下が出来た理由みたいな存在よ」
俺はゴクリと唾を飲みこんだ。もしかして、鷹鸇の屋敷の地下にいるのは……。
「国主一族だけがその存在を知ってるの。ソヤツの身柄を決して脅かさぬという契約で繁栄してきたからね」
「え? では雎鳩は……ではない、お主は?」
「あらあら! 早合点しないで! 国主一族以外でもその存在を知り得る者がいるでしょう?」
さあ、解るか? という雎鳩の挑戦的な瞳が俺を射た。
国主一族が、その秘密の契約をしている相手の元に連れていく可能性のある者、とは……。そして、絶対にその存在を口外しないと言い切れる者、とは……。
閃いた答えは、我ながら承服しがたいものだった。
「お主は……その……贄の成れの果てか?」
雎鳩の表情がパッと輝いた。
「さすがに頭が切れるわねぇ。朴念仁なのはそっちに余分に振込んだ所為なのかも」
ということは、話の流れ的に……。
「その、神だか何だかわからぬものが『夜光杯』を抱えているということなのだな」
「ご名答!」
雎鳩はニコリと笑うと、小さく拍手をした。
雎鳩は残りの有の実を齧り、残った芯を庭に放った。空からサッと鳥が舞い降り、それをさらって飛んでいく。
「波武に恃んだのは『夜光杯の儀の、邪魔をして欲しい』ってこと。おかげで、祈念は不成立。願掛けは力の弱い
――遠仁ごときが叶えたかどうか、その祈念した者は満足したのかどうか、主は知っているのか?
鸞の考えは、当たりであったのか……。
でも、『夜光杯の儀』の
「何故……邪魔をしようなどと。鵠殿に恨みでも?」
「鵠には何の恨みも無いわ。というか、興味もなかった」
とうとう国主殿は呼び捨てになった。
雎鳩は胡坐の脚を組み換えた。
「鵠が呼び出す相手の方に、用があったんだもの」
「……それは、贄を奉じられる神の方に……ということか?」
「神?」
雎鳩は眉間に皺を寄せると、俺を上目に見た。
「アレを、『神』と言っていいのかしら。久生? 尸忌? 遠仁? 妖? いや、どれにも当てはまらないわ。……ただ、ずっと以前からこの土地に居た。この城下が出来た理由みたいな存在よ」
俺はゴクリと唾を飲みこんだ。もしかして、鷹鸇の屋敷の地下にいるのは……。
「国主一族だけがその存在を知ってるの。ソヤツの身柄を決して脅かさぬという契約で繁栄してきたからね」
「え? では雎鳩は……ではない、お主は?」
「あらあら! 早合点しないで! 国主一族以外でもその存在を知り得る者がいるでしょう?」
さあ、解るか? という雎鳩の挑戦的な瞳が俺を射た。
国主一族が、その秘密の契約をしている相手の元に連れていく可能性のある者、とは……。そして、絶対にその存在を口外しないと言い切れる者、とは……。
閃いた答えは、我ながら承服しがたいものだった。
「お主は……その……贄の成れの果てか?」
雎鳩の表情がパッと輝いた。
「さすがに頭が切れるわねぇ。朴念仁なのはそっちに余分に振込んだ所為なのかも」
ということは、話の流れ的に……。
「その、神だか何だかわからぬものが『夜光杯』を抱えているということなのだな」
「ご名答!」
雎鳩はニコリと笑うと、小さく拍手をした。