序 1

文字数 295文字



 感覚のぼやけた様は、まるで、暗い水底に居るようだった。

 混濁した意識の中に、時々ふと鮮明に音が介入してくる。
 身体が揺られて、どこかへ運ばれているのは解った。

「……かるか? おい! 聞こえるか……」
「……出血がヒドイな」
「損傷個所は? 具足を外せ!」

 目を開けたと思ったが、何も見えなかった。
 何者かが体にふれたようだった。
 身体がしびれたように重く、痛いのか、苦しいのかも解らない。
 感覚が、無くなったようだ。

 このまま、死ぬのだろうか。
 
 漠然と思った。不思議と恐怖は無かった。

「ともかく、傷を(あらた)める。(にお)、薬湯を!」

 ニオ……?

 ガクンと身体が揺れて、それきりまた意識は水底に沈んだ。
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登場人物紹介

白雀(はくじゃく)

下級仕官の四男。戦では「花方」と呼ばれる切り込み隊の一人。

自他ともに認める朴念仁。堅物なくらいに真面目な性格。

新嘗祭の奉納舞ではトリを勤める舞の名手。

鸞(らん)

「久生(くう)」と呼ばれる魂を喰らう無形の神様。

白雀を気に入って自分の食物認定して付き纏う。

相手によって姿形を変えるが、白雀の前では5歳の童の姿でいることが多い。

傲岸不遜で態度がデカい上、戦闘能力も高い。

久生はもともと死者の魂を召し上げる役割を持つが、鸞の場合、生きている者から魂を引っこ抜くこともする。


波武(はむ)

実の名は「大波武」。成人男性を軽々背負える程の大きな白狼の姿の「尸忌(しき)」。

尸忌は、屍を召して地に返す役割を持つ神。

白雀の屍を召し損ねて以降、他に取られないように、何くれと力になる。

鳰(にお)

神に御身を御饌(みけ)に捧げる「夜光杯の儀」の贄にされ、残った右目と脳をビスクの頭部に納めた改造人間。

医術師の梟(きょう)の施療院で働いている。瀕死の白雀を看護した。

阿比(あび)

死者を弔う際に久生を呼び下ろす「謳い」。

屋代に所属しない「流しの謳い」を生業としており、波武、鸞とは古くからの知り合い。

遠仁相手に幾度となく修羅場を潜り抜けている。細かいことは気にしない性格。

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