拾われたもの 4

文字数 600文字

 そこへ、何人かの男たちが部屋へ入ってきた。
 身なりからして(きょう)と同じ医術者か、それに類する者らのようだった。俺は幾多の腕に抱え上げられて戸板のようなものに移された。

 部屋の外はどうやら野外のようだったが、薄闇に閉ざされ、彼誰(かわたれ)誰彼(たそがれ)時かもわからない。
 笠を目深に被った人影が視界に入った。服装からして先程の(にお)と判った。
 (にお)の脇に毛むくじゃらの(けだもの)がひかえている。
 ふと、夢現の幻を思い出した。
 あれは、いかような生き物であったか? 覚えがない……。

(にお)よ、コヤツを本陣へ送ったらすぐ戻れ。夕闇が迫っておるのでな。いかな波武(はむ)が同行とはいえ、夜道は危ない」

 (きょう)の弁に、今が誰彼(たそがれ)時であるとようやく知れた。俺は背負子(しょいこ)のようなものに括りつけられて、(にお)に負われた形で獣の背に乗った。
 獣はどうやら大きな狼犬のようだ。

 (きょう)は俺の耳に何かを押し込んだ。
 一瞬、キンと耳鳴りがする。

 (白雀(はくじゃく)様。聞こえますか?)
 
 頭の中に言葉がひらめいた。何事かと目を見張る。

 ((にお)です)

「う……あ………」
 装置を使って念波で話すといっていたか。
 慣れぬ感覚と抑揚の少ない声に全身が粟立った。

(麻薬にて痛みはさほど感じ難いとは思いますが、道を急ぎますので揺れにはご容赦ください)

「……う」
 まともに話すことが出来ないながら、精一杯の承諾の意は伝えた。

波武(はむ)、行くよ)
 
 狼犬は低く唸ると、夕闇に陰り始めた山道へ飛ぶように走り込んでいった。
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登場人物紹介

白雀(はくじゃく)

下級仕官の四男。戦では「花方」と呼ばれる切り込み隊の一人。

自他ともに認める朴念仁。堅物なくらいに真面目な性格。

新嘗祭の奉納舞ではトリを勤める舞の名手。

鸞(らん)

「久生(くう)」と呼ばれる魂を喰らう無形の神様。

白雀を気に入って自分の食物認定して付き纏う。

相手によって姿形を変えるが、白雀の前では5歳の童の姿でいることが多い。

傲岸不遜で態度がデカい上、戦闘能力も高い。

久生はもともと死者の魂を召し上げる役割を持つが、鸞の場合、生きている者から魂を引っこ抜くこともする。


波武(はむ)

実の名は「大波武」。成人男性を軽々背負える程の大きな白狼の姿の「尸忌(しき)」。

尸忌は、屍を召して地に返す役割を持つ神。

白雀の屍を召し損ねて以降、他に取られないように、何くれと力になる。

鳰(にお)

神に御身を御饌(みけ)に捧げる「夜光杯の儀」の贄にされ、残った右目と脳をビスクの頭部に納めた改造人間。

医術師の梟(きょう)の施療院で働いている。瀕死の白雀を看護した。

阿比(あび)

死者を弔う際に久生を呼び下ろす「謳い」。

屋代に所属しない「流しの謳い」を生業としており、波武、鸞とは古くからの知り合い。

遠仁相手に幾度となく修羅場を潜り抜けている。細かいことは気にしない性格。

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