伏魔の巣 9
文字数 618文字
灰色の狼犬は、グルルと喉で唸ると、シュンと細くなって急速にこちらへ伸びて来る黒い靄を見据えた。
「アレを喰え。多分、鳰 の肉を抱えている奴だ」
「え?」
「おたおたしてるとお前が喰われるぞ」
「えっ? あっ?」
俺は慌てて左手の平を、今まさに襲い掛からんとしている黒い靄に向けた。
丹い閃光が一気に広がり、俺の手に向けてドンという圧力が掛かった。
「っ……ああ!」
押し返されないように全霊で踏ん張る。
今回の熱は全身を駆け巡った。
ヤバい。コイツ、後で
俺の耳に鵠 殿の哄笑が響いた。
「これは! これは面白い! お前は『遠仁』を喰らうのか! 我が眷族を喰うというのか! これは愉快!」
周囲を警戒していた波武 が舌打ちした。
「おい。喰い終わったら、面倒臭せぇことになる前にとっとと
「ずらか……え? どうやって……」
丹い光が消えた瞬間、何かを掴んだ感触がして俺は懐にそれを突っ込んだ。
波武が俺の襟首に噛みついて背中に放り上げる。
周囲が俄かに慌ただしくなり、手に手に得物を携 えて大勢の家臣が姿を現した。
「ちゃんと捕まっておけよ」
波武の声に俺は慌てて背毛 を掴んだ。
腹の底から何かがこみ上げてくる。
思わず曖気 が漏れた。
「吾 の背で嘔吐 くのだけは勘弁してくれ」
そういうと、波武は躍り上がるようにして壁を駆け上がり、難なく追手を振り切った。そのまま屋根伝いに駆けていき、あっという間に館は遙後ろとなっていった。
「アレを喰え。多分、
「え?」
「おたおたしてるとお前が喰われるぞ」
「えっ? あっ?」
俺は慌てて左手の平を、今まさに襲い掛からんとしている黒い靄に向けた。
丹い閃光が一気に広がり、俺の手に向けてドンという圧力が掛かった。
「っ……ああ!」
押し返されないように全霊で踏ん張る。
今回の熱は全身を駆け巡った。
ヤバい。コイツ、後で
吐く
パターンだ。俺の耳に
「これは! これは面白い! お前は『遠仁』を喰らうのか! 我が眷族を喰うというのか! これは愉快!」
周囲を警戒していた
「おい。喰い終わったら、面倒臭せぇことになる前にとっとと
ずらかる
ぞ」「ずらか……え? どうやって……」
丹い光が消えた瞬間、何かを掴んだ感触がして俺は懐にそれを突っ込んだ。
波武が俺の襟首に噛みついて背中に放り上げる。
周囲が俄かに慌ただしくなり、手に手に得物を
「ちゃんと捕まっておけよ」
波武の声に俺は慌てて
腹の底から何かがこみ上げてくる。
思わず
「
そういうと、波武は躍り上がるようにして壁を駆け上がり、難なく追手を振り切った。そのまま屋根伝いに駆けていき、あっという間に館は遙後ろとなっていった。