神楽月 1
文字数 529文字
遙に城下を見下ろす山の端に立って、俺はようやくと安堵の溜息をついた。雎鳩 の「さっさと引っ込んどけ」は決してただの悪態ではなかった。どこから嗅ぎつけたのか蓮角の手が一気に回った。俺は琵琶を回収して街道の裏道を回り、今こうして城下から離脱している。
「きっと、あの式部の姫経由であるよ」
鸞 は草の穂を振り回しながら言った。
「雎鳩は……大丈夫であろうか」
あの蓮角が大丞家に何か圧力をかけねばよいが……。
鸞は足元を跳ねていく虫を見つけて追いかけ始めた。
「大丈夫だろう。さしもの蓮角も、非の無いモノをどうこうはできぬだろう? それに、あの
まぁ、良家の子女に無体を働くとは思えぬが……。
「で、どのルートで施療院に戻るのだ?」
お! 捕まえた、と鸞は手にした虫を俺に差し出した。
閻魔蟋蟀 だ。屍を食む虫。そろそろ寒くなる時期であるのに、未だ生きておったか。健気なことだ。
「そうだな……」
追手を巻くために反対側の木戸から出てきた。城下に沿ってぐるりと戻るよりも、一旦山を下って麓の村に寄るか。
「宿場へ行くよりも、村に回る方が目につかぬだろう。山を下るぞ」
「そうか。初めての道だな。楽しみだ」
鸞は蟋蟀を放つと、ニコッと笑って俺を見上げた。
「きっと、あの式部の姫経由であるよ」
「雎鳩は……大丈夫であろうか」
あの蓮角が大丞家に何か圧力をかけねばよいが……。
鸞は足元を跳ねていく虫を見つけて追いかけ始めた。
「大丈夫だろう。さしもの蓮角も、非の無いモノをどうこうはできぬだろう? それに、あの
玉
なればきっと跳ね返すわ!」まぁ、良家の子女に無体を働くとは思えぬが……。
「で、どのルートで施療院に戻るのだ?」
お! 捕まえた、と鸞は手にした虫を俺に差し出した。
「そうだな……」
追手を巻くために反対側の木戸から出てきた。城下に沿ってぐるりと戻るよりも、一旦山を下って麓の村に寄るか。
「宿場へ行くよりも、村に回る方が目につかぬだろう。山を下るぞ」
「そうか。初めての道だな。楽しみだ」
鸞は蟋蟀を放つと、ニコッと笑って俺を見上げた。