伏魔の巣 2
文字数 917文字
「儂には、……妻と娘がおったのだ」
梟 はそう言うと、白髪交じりの頭をポリポリと掻いた。
「そうよのう……今から十余年前になるか、阿比 が……阿比もまぁ、儂らが拾って育てた子なのだが……桶に込めた鳰 を連れてきた。波武 が、水汲みに行った折、掬 ってきたんじゃそうな。あまりに見慣れぬ様にて、どうしたものかと思うたが生きておるのは確からしいし、意識らしきものがある。阿比が、水辺で掬ってきた者なので『鳰』と名をつけて、儂がどうにか意志疎通ができるよう試行錯誤を繰り返した。拾った時点の大きさで、多分、赤子であろうと見当をつけた。それから、年相応の器を作った」
「阿比は、鳰の名付け親か」
とすると、鳰は、いつからこの成りなのだ? 俺は、また鳰を見た。
(今の体に納めていただいたのは、かれこれ4年くらい前ですか。それ以降は、誕生日ごとに丈を伸ばしていただいておりました)
鳰が偉そうに胸を張ってみせた。拾われた日か、器をもらった日か、いずれかが「誕生日」なのであろう。
「マメに養生が必要なのだな」
人ならぬ様なら、せめて人に近付くようにと。
「鳰の面倒を主に見ていたのは、儂の妻と娘じゃ。年の離れた兄弟を育てるように、それはそれは可愛がっておった」
「梟殿の細君は……」
梟は目を細めて遠くを見やった。
「5年ほど前に、病で身罷 った。娘は……嫁いだが……産後の肥立ちが悪うて、これまた夭逝 してな。儂は独りじゃ」
(ひどいなー。私がおりまする。阿比殿もお子と言っていいほど可愛がっておられるではないですか)
「そうよなぁ。すまんな。家内のことを考えると、どうにも辛気臭うなっていかん」
梟は眉尻を下げて謝った。
「ところで、何か用があって来たのではなかったか?」
俺は、梟が手にしている紙束に視線を送った。おお! そうじゃそうじゃ、と梟はその紙束をこちらに広げてみせた。
「これは、鳰がここへ来た時に測定したサイズを記載したものなのだがな、先日救い出した左目は、これと同じだったのじゃ。での、今の脳に繋げてから急速に今の大きさに成長して右目と同じ大きさになっておる」
「……と、いうことは、遠仁に抱えられた時点で『鳰の肉の時は止まっている』ということか」
「そうなるな」
「そうよのう……今から十余年前になるか、
「阿比は、鳰の名付け親か」
とすると、鳰は、いつからこの成りなのだ? 俺は、また鳰を見た。
(今の体に納めていただいたのは、かれこれ4年くらい前ですか。それ以降は、誕生日ごとに丈を伸ばしていただいておりました)
鳰が偉そうに胸を張ってみせた。拾われた日か、器をもらった日か、いずれかが「誕生日」なのであろう。
「マメに養生が必要なのだな」
人ならぬ様なら、せめて人に近付くようにと。
「鳰の面倒を主に見ていたのは、儂の妻と娘じゃ。年の離れた兄弟を育てるように、それはそれは可愛がっておった」
「梟殿の細君は……」
梟は目を細めて遠くを見やった。
「5年ほど前に、病で
(ひどいなー。私がおりまする。阿比殿もお子と言っていいほど可愛がっておられるではないですか)
「そうよなぁ。すまんな。家内のことを考えると、どうにも辛気臭うなっていかん」
梟は眉尻を下げて謝った。
「ところで、何か用があって来たのではなかったか?」
俺は、梟が手にしている紙束に視線を送った。おお! そうじゃそうじゃ、と梟はその紙束をこちらに広げてみせた。
「これは、鳰がここへ来た時に測定したサイズを記載したものなのだがな、先日救い出した左目は、これと同じだったのじゃ。での、今の脳に繋げてから急速に今の大きさに成長して右目と同じ大きさになっておる」
「……と、いうことは、遠仁に抱えられた時点で『鳰の肉の時は止まっている』ということか」
「そうなるな」