銀花 6
文字数 769文字
――気が付いたら、私はここにおりました
「共に子育てをするはずの夫はどうした?」
俺は更に畳みかけた。
――いずれに……おるやら分かりませぬ
女子は赤子を胸に掻き抱いたまま、オロオロと辺りを見回した。俺の言葉に、今更気が付いたという風で前後もなく取り乱している様が、なんとも哀 れを誘う。
――私はどこからきたものやら……気付けばここで……吾子を……
胸に抱いた赤子に視線を落として、女子はハッと目を見開いた。
胸に抱いたおくるみがハラハラとほどけて腕から零れ落ちた。
枝から零れ落ちる雪の塊のごとく、腕の隙間からバラバラになって崩れ、やがて女子は空を掴む様になった。
――吾子は?
――吾子は……どこ…………
女子は髪を振り乱して辺りを見回す。
――吾子は?
――確かに……確かに抱いておりましたのに……どこに……
顔を覆い、胸をかきむしり、雪の上を滑るように右往左往する。
さしもの俺も予想外の展開に目を瞬くしかなかった。
後ろに隠れて様子を窺っていた鸞も、眉間に皺を寄せて、何が起きたかと訝っている。
――主らは知らぬか? 吾子を知らぬか?
――ああ! 吾子は! 吾子はいずこに…………
「既に……召されておるよ」
俺は静かに答えた。
取り乱していた女子がピタリととまり、涙に濡れて乱れた面をこちらに向けた。
――既に? ……召されたと………?
――ならば、私はどうして此処に……
「さて、それは知らぬが……其方はどうする? お子と一緒の場所に行くか?」
――吾子の場所に…………
女子はそっとこちらに手を伸ばした。
俺は、丹く燃える左手を差し出す。
女子の姿は俺の手に吸い寄せられるように吞まれていった。
消える瞬間、…………女子が微笑んだような気がした。
「……何……だったのかの?」
鸞が、呟いた。
「さあ……俺には解らぬ」
俺の左手には、薄紅の花簪が残った。
「共に子育てをするはずの夫はどうした?」
俺は更に畳みかけた。
――いずれに……おるやら分かりませぬ
女子は赤子を胸に掻き抱いたまま、オロオロと辺りを見回した。俺の言葉に、今更気が付いたという風で前後もなく取り乱している様が、なんとも
――私はどこからきたものやら……気付けばここで……吾子を……
胸に抱いた赤子に視線を落として、女子はハッと目を見開いた。
胸に抱いたおくるみがハラハラとほどけて腕から零れ落ちた。
枝から零れ落ちる雪の塊のごとく、腕の隙間からバラバラになって崩れ、やがて女子は空を掴む様になった。
――吾子は?
――吾子は……どこ…………
女子は髪を振り乱して辺りを見回す。
――吾子は?
――確かに……確かに抱いておりましたのに……どこに……
顔を覆い、胸をかきむしり、雪の上を滑るように右往左往する。
さしもの俺も予想外の展開に目を瞬くしかなかった。
後ろに隠れて様子を窺っていた鸞も、眉間に皺を寄せて、何が起きたかと訝っている。
――主らは知らぬか? 吾子を知らぬか?
――ああ! 吾子は! 吾子はいずこに…………
「既に……召されておるよ」
俺は静かに答えた。
取り乱していた女子がピタリととまり、涙に濡れて乱れた面をこちらに向けた。
――既に? ……召されたと………?
――ならば、私はどうして此処に……
「さて、それは知らぬが……其方はどうする? お子と一緒の場所に行くか?」
――吾子の場所に…………
女子はそっとこちらに手を伸ばした。
俺は、丹く燃える左手を差し出す。
女子の姿は俺の手に吸い寄せられるように吞まれていった。
消える瞬間、…………女子が微笑んだような気がした。
「……何……だったのかの?」
鸞が、呟いた。
「さあ……俺には解らぬ」
俺の左手には、薄紅の花簪が残った。