乙女心と面目 9
文字数 615文字
擬戦が散々な様になったので、交喙 が、気分直しに我が館へ、と言い出した。雎鳩 が、ほら来なすった、という顔でこちらに目配せをする。
……なるほど。
俺は桟敷の撤収が済むまでの僅かの間、そっと席を外して目下の演習場へ下りた。
「雎鳩様が兵の無事を案じておられた。怪我人は出なかったか」
擬戦の指揮を取っていた隊長クラスの兵に、そっと耳打ちする。
色を失っていた男は、慌てて居 を正した。
「ご心配、恐悦至極にござりまする! かような失態! 誠に……誠に……」
「案ずるな。雎鳩様は、貴君を責めておられるのではない。時に、駒はどうしたのだ? かように乱れるのは普通ではない」
「ああ……それは……」
男は視線を彷徨 わせた。
「茂みに蜂の巣が潜んでおったようで、たまたま駒がソレに触れたようなのです」
「ほう……」
かように開けたところの茂みに、蜂の巣とはこれまた不可解な……。やはり仕組んだか。
「もし交喙様に咎められるようなことがあれば、雎鳩様が御口添えなさる所存である。くれぐれも
「は!」
男は居住まいを正して敬礼をした。
面の下、小さく舌打ちした。
個人的な企みに人を巻き込むなと言いたい。
俺は急ぎ雎鳩の元に戻った。
「やはり、罠にござりまするな」
「ふん。承知した。供されたモノは極力避けるとしようぞ」
俺の報告に雎鳩はこちらに向かぬまま答えた。
交喙は、
……なるほど。
俺は桟敷の撤収が済むまでの僅かの間、そっと席を外して目下の演習場へ下りた。
「雎鳩様が兵の無事を案じておられた。怪我人は出なかったか」
擬戦の指揮を取っていた隊長クラスの兵に、そっと耳打ちする。
色を失っていた男は、慌てて
「ご心配、恐悦至極にござりまする! かような失態! 誠に……誠に……」
「案ずるな。雎鳩様は、貴君を責めておられるのではない。時に、駒はどうしたのだ? かように乱れるのは普通ではない」
「ああ……それは……」
男は視線を
「茂みに蜂の巣が潜んでおったようで、たまたま駒がソレに触れたようなのです」
「ほう……」
かように開けたところの茂みに、蜂の巣とはこれまた不可解な……。やはり仕組んだか。
「もし交喙様に咎められるようなことがあれば、雎鳩様が御口添えなさる所存である。くれぐれも
早まったこと
は致さぬように。雎鳩様の恥になる故」「は!」
男は居住まいを正して敬礼をした。
面の下、小さく舌打ちした。
個人的な企みに人を巻き込むなと言いたい。
俺は急ぎ雎鳩の元に戻った。
「やはり、罠にござりまするな」
「ふん。承知した。供されたモノは極力避けるとしようぞ」
俺の報告に雎鳩はこちらに向かぬまま答えた。
交喙は、
自陣
に引き込んで何をする気なのやら。