遠仁の憑坐 7
文字数 720文字
掌の上で空の湯呑を弄 びながら阿比は淡々と語った。
「鳰 が良い例だ。あの成りでどうにも目立つ存在であることは、よもや隠しようがないが、私がただ1度、鳰の元に来た遠仁 を退 けただけで『遠仁の憑坐 』などという噂が立った。貴殿に直接かかわらなくとも遠見の印象だけで噂は独り歩きするものだ」
「ただの1度?」
俺は驚きを隠すことができなかった。
ということは、先のアレを入れてもたった2度ということだ。
「憑坐」というのは些か大袈裟に過ぎる物言いではないか。
だが、俺がこの二十余年生きてきて1度も遠仁なぞにお目にかかったことがなかったことから考えると、ただの1度でも遠仁を寄せたことは充分な証左たり得るのか?
「いずれにせよ。此度 の顛末は、『何も起きなかったこと』にしておくに越したことはない、と私も思うぞ」
阿比はそう締めくくった。
俺は、今一度、一回り痩せた自分の左腕を見た。
丹 い稲妻の軌跡を網の目のように纏った腕。
注視を躊躇う無惨な様だ。
それでも鳰は、毎日労わってくれた。
いつか動くと信じているかのように、作り物の手で撫でさすり、指の一本一本まで慈しんでくれた。
己ですら半ば諦めていたというのに……。
動かぬ左腕 は捨て置けたであろうが、俺は
俺は、左の拳を硬く握り込んだ。
「ああ……その通りかもな。……だが」
顔を上げて、梟を、阿比を見る。
「鳰には、良い……であろう? 俺が、元の通り左腕が動かせるようになったことを大っぴらに出来ない理由とともに、明かしても良いよな? 毎日、俺の腕が動かぬモノとして労わってくれる鳰に知らぬふりをするのは……さすがに俺も苦しい」
梟と阿比は、互いに苦い表情 をして顔を見合わせた。
「
「ただの1度?」
俺は驚きを隠すことができなかった。
ということは、先のアレを入れてもたった2度ということだ。
「憑坐」というのは些か大袈裟に過ぎる物言いではないか。
だが、俺がこの二十余年生きてきて1度も遠仁なぞにお目にかかったことがなかったことから考えると、ただの1度でも遠仁を寄せたことは充分な証左たり得るのか?
「いずれにせよ。
阿比はそう締めくくった。
俺は、今一度、一回り痩せた自分の左腕を見た。
注視を躊躇う無惨な様だ。
それでも鳰は、毎日労わってくれた。
いつか動くと信じているかのように、作り物の手で撫でさすり、指の一本一本まで慈しんでくれた。
己ですら半ば諦めていたというのに……。
動かぬ
コレ
を無視できるか?俺は、左の拳を硬く握り込んだ。
「ああ……その通りかもな。……だが」
顔を上げて、梟を、阿比を見る。
「鳰には、良い……であろう? 俺が、元の通り左腕が動かせるようになったことを大っぴらに出来ない理由とともに、明かしても良いよな? 毎日、俺の腕が動かぬモノとして労わってくれる鳰に知らぬふりをするのは……さすがに俺も苦しい」
梟と阿比は、互いに苦い