死にたがり 4
文字数 700文字
「俺では駄目か?」
鸞がはたと足を止めた。
「どうせ、喰う気であるのだろう? されば、『夜光杯の儀』など関係なく俺が鸞の肉に成れぬか?」
その内、鸞に追いついた。
俯く鸞の小さい背中に、俺は畳みかける。
「鸞が鳰のことを肉と定めるのであれば、俺と鸞は敵になってしまうが、俺が鸞の肉になると定めれば、今までと何一つ変わらぬように思うが?」
鸞の背中がフルフルと小さく震えた。
「……主は、まっこと気持ちが悪いのう!」
くるりと振り仰いで俺を睨みつけた目は、僅かに潤んでいるように見えた。
「利他にもほどがあるわ!」
本当に、素直でない。
「決まりであるな」
俺はホッと肩の力を抜いた。鸞には振り回されるばかりだ。
鸞は不機嫌を装 った顔のまま言った。
「では、波武には主が説明せいよ!」
「は?」
「肉はもともと波武の取り分であったのに、吾がもらうことになったからな!」
「あ!」
そうであった。
「あと、これは吾も如何とするか迷うておるのだが……阿比を説得せねばならぬのよ」
「ええっ?」
それが一番厄介ではないか。鸞が消えるのに俺が肉になるから阿比が謳ってくれ、と、そう説得するのか? どう考えても阿比が素直に「うん」と言うとは思えぬ。
「いや、だって、それは鳰が肉でも『うん』とはなかなか言わぬであろう?」
「うむ! だから如何とするか迷うておったのだ!」
「それは……」
鸞が言えよ、と思うた。
鸞はようやく顔をほころばせた。
「よかった! 主に阿比を説得してもらうとしよう!」
うわー、これは難儀なことを……。
「……『謳い』は阿比でなくては駄目か?」
「駄目に決まっておろうが!」
鸞は目を見開いて頬をふくらませた。
鸞がはたと足を止めた。
「どうせ、喰う気であるのだろう? されば、『夜光杯の儀』など関係なく俺が鸞の肉に成れぬか?」
その内、鸞に追いついた。
俯く鸞の小さい背中に、俺は畳みかける。
「鸞が鳰のことを肉と定めるのであれば、俺と鸞は敵になってしまうが、俺が鸞の肉になると定めれば、今までと何一つ変わらぬように思うが?」
鸞の背中がフルフルと小さく震えた。
「……主は、まっこと気持ちが悪いのう!」
くるりと振り仰いで俺を睨みつけた目は、僅かに潤んでいるように見えた。
「利他にもほどがあるわ!」
本当に、素直でない。
「決まりであるな」
俺はホッと肩の力を抜いた。鸞には振り回されるばかりだ。
鸞は不機嫌を
「では、波武には主が説明せいよ!」
「は?」
「肉はもともと波武の取り分であったのに、吾がもらうことになったからな!」
「あ!」
そうであった。
「あと、これは吾も如何とするか迷うておるのだが……阿比を説得せねばならぬのよ」
「ええっ?」
それが一番厄介ではないか。鸞が消えるのに俺が肉になるから阿比が謳ってくれ、と、そう説得するのか? どう考えても阿比が素直に「うん」と言うとは思えぬ。
「いや、だって、それは鳰が肉でも『うん』とはなかなか言わぬであろう?」
「うむ! だから如何とするか迷うておったのだ!」
「それは……」
鸞が言えよ、と思うた。
鸞はようやく顔をほころばせた。
「よかった! 主に阿比を説得してもらうとしよう!」
うわー、これは難儀なことを……。
「……『謳い』は阿比でなくては駄目か?」
「駄目に決まっておろうが!」
鸞は目を見開いて頬をふくらませた。