磯の鮑 5

文字数 851文字

「私の精鋭たちを紹介するわね」
 雎鳩の側近の取り巻きたちの元に案内すると言われた。
 精鋭? そんなものがあったのか?
「いくら外見をいじっても骨格まではどうにもならぬだろう。肩幅のいかつさは隠しようがない」
交喙(いすか)のことがあったからね。父上に無理言って人を集めてもらったのよ。白雀は

だから大丈夫よ」
「いくら何でも、それは言い過ぎでは……」
「あんたのことは『(じゅん)』と紹介してあるわ。烏衣から隠す為って、皆には予め話しているから気にしないで」
 は? そこは蓮角ではないのか? 総て計画づくなのか?
 通りで用意が良いと思うた。

「はあい! みんなー! 私のいいヒト紹介するわよー」
 廊下のどん詰まりにある戸を開くと、香の薫りがふわりと俺を取り巻いた。
「「「「ハイ! 雎鳩様!」」」」
 部屋に控えていたのは、俺が見たこともない娘たちだった。
 ああ、否、独り企鵝(きが)を彷彿とさせる相撲人(すまいびと)のような女子がおった。
「皆それぞれに技の使い手よ。弓が上手かったり、護身に長けておったり、剣術の指南が出来たり……」
「はぁ……」
 驚くほどに体格のよい女子を揃えているのに、(かお)はそこそこ整っておるのは、アレか? 化粧の所為か?
 一歩間違えれば、これは……百鬼夜行であろうよ。
「まぁ。ほんに男子であるのか? カワイイことよ」
 俺の傍に一にやってきた女子は、俺が見上げる程の高さがあった。
「我は翡翠(ひすい)と申す。長弓を遣う」
「妾は、魚虎(ぎょこ)よ。体術の使い手じゃ」
 相撲人と見た女子も傍に来た。
「魚虎は、この中で唯一の既婚よ。可愛らしき娘御がいる」
 雎鳩の紹介に、俺は目を白黒させた。
 意外……と言っては無礼であるが、……まぁ。
「吾は水恋(すいれん)である。組手を嗜む」
 この中では些か細身であるが、目つきは怖い娘がこちらに微笑んだ。
「終いの名乗りになったが、我名は(りゅう)。剣術を使う」
 肩回りがいささかしっかりしておる女子が、コクリと頭を下げた。
 ここまでの精鋭を揃えておれば、侍従など要らぬではないか。
 どういう顔をしてよいのやら、俺は困惑して面子を見回した。
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登場人物紹介

白雀(はくじゃく)

下級仕官の四男。戦では「花方」と呼ばれる切り込み隊の一人。

自他ともに認める朴念仁。堅物なくらいに真面目な性格。

新嘗祭の奉納舞ではトリを勤める舞の名手。

鸞(らん)

「久生(くう)」と呼ばれる魂を喰らう無形の神様。

白雀を気に入って自分の食物認定して付き纏う。

相手によって姿形を変えるが、白雀の前では5歳の童の姿でいることが多い。

傲岸不遜で態度がデカい上、戦闘能力も高い。

久生はもともと死者の魂を召し上げる役割を持つが、鸞の場合、生きている者から魂を引っこ抜くこともする。


波武(はむ)

実の名は「大波武」。成人男性を軽々背負える程の大きな白狼の姿の「尸忌(しき)」。

尸忌は、屍を召して地に返す役割を持つ神。

白雀の屍を召し損ねて以降、他に取られないように、何くれと力になる。

鳰(にお)

神に御身を御饌(みけ)に捧げる「夜光杯の儀」の贄にされ、残った右目と脳をビスクの頭部に納めた改造人間。

医術師の梟(きょう)の施療院で働いている。瀕死の白雀を看護した。

阿比(あび)

死者を弔う際に久生を呼び下ろす「謳い」。

屋代に所属しない「流しの謳い」を生業としており、波武、鸞とは古くからの知り合い。

遠仁相手に幾度となく修羅場を潜り抜けている。細かいことは気にしない性格。

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