夏椿の森 2
文字数 668文字
「いや、……これは肉を見て笑っていたわけでは無い」
「どう言い訳しようとそのようにしか見えぬわ」
ひどい誤解だ。
俺は、沢岸の岩の上に朴の葉を敷いて鳰の拳を置いた。
にしても、随分とボロボロにされたものだ。衣を脱いでみたら、背のあたりなど見事にぼろきれ状態ではないか。また、これを着ろと言われたらどこが袖口かと迷って苦労する。
「あ……だだ」
鞭を喰らったのは実は初めてではない。これが灼熱の痛みと熱で一晩は苦しむのは解っている。今夜は横になることも出来ない。
俺の背の傷をペロリと舐めてから、波武 が言った。
「惨 いことをする奴だな。あんな奴、喰うのも願い下げだ。品位を下げる」
こびりついた血を冷たい水で落としながら、俺は波武を見た。
「波武……お主、俺に話しかけるのは今日が最初ではないよな」
「ん? そうであったか?」
「夢現 に、『喰えん』とか何とか言われた覚えがあるが?」
波武は、片眉を上げた。
「おお。聞かれておったか」
ぺろりと俺の顔を舐める。
「お前を喰おうと待っておったのよ」
「俺を?」
茫然と波武の顔を見返した。
そういえば、コイツ、おかしなことだらけだ。
阿比は相棒だと言っていた。
鳰を掬 って持ってきた。
そこから更に十余年。
ただの狼犬ならば既に老犬の域のはず。
なのに、この力強さは老犬のそれではない。
「そ奴は、『尸忌 』よ。誠の名を大波武 という」
聞き覚えのある声に振り向いた。黒衣の男が立っていた。
「阿比 殿……」
「よう!」
右手をあげて挨拶した阿比は、波武に近付き愛おしそうに両手で頭を抱えてワシワシと撫でまわした。
「どう言い訳しようとそのようにしか見えぬわ」
ひどい誤解だ。
俺は、沢岸の岩の上に朴の葉を敷いて鳰の拳を置いた。
にしても、随分とボロボロにされたものだ。衣を脱いでみたら、背のあたりなど見事にぼろきれ状態ではないか。また、これを着ろと言われたらどこが袖口かと迷って苦労する。
「あ……だだ」
鞭を喰らったのは実は初めてではない。これが灼熱の痛みと熱で一晩は苦しむのは解っている。今夜は横になることも出来ない。
俺の背の傷をペロリと舐めてから、
「
こびりついた血を冷たい水で落としながら、俺は波武を見た。
「波武……お主、俺に話しかけるのは今日が最初ではないよな」
「ん? そうであったか?」
「
波武は、片眉を上げた。
「おお。聞かれておったか」
ぺろりと俺の顔を舐める。
「お前を喰おうと待っておったのよ」
「俺を?」
茫然と波武の顔を見返した。
そういえば、コイツ、おかしなことだらけだ。
阿比は相棒だと言っていた。
鳰を
そこから更に十余年。
ただの狼犬ならば既に老犬の域のはず。
なのに、この力強さは老犬のそれではない。
「そ奴は、『
聞き覚えのある声に振り向いた。黒衣の男が立っていた。
「
「よう!」
右手をあげて挨拶した阿比は、波武に近付き愛おしそうに両手で頭を抱えてワシワシと撫でまわした。