賜物 3

文字数 870文字

精鋭の控え部屋に戻り、厩方から聞いた怪異の話をした。翡翠が、そういえば、と小首を傾げた。
「最近また、その話を市中でよく聞くようになったわねぇ。夏であるからかと思うていたけれど……」
「ああ、私も聞いたな。それも、御陵の近くに出るとか」
 (りゅう)が話に加わる。水恋(すいれん)が目をキラキラさせた。
「なになに? 四辻的な? 心霊出現場所があるの?」
「あら、怖い話はいやぁよ」
 魚虎(ぎょこ)が肩をすくめる。
「そんな、場所まではっきりしておる程の話であったのか?」
 俺が身を乗り出すと、水恋が、お! 乗り気か? と笑った。
(じゅん)ちゃんは興味あるの? 肝試しとか? 行くなら付き合うわよ」
「止めときなさいよ。変なことに頸突っ込まない方がいいと思うわよぉ」
 魚虎が渋い顔をした。
「あら、姐さんは怖いの?」
 翡翠が笑いを含んだ声で言うと、魚虎は口を尖らせた。
「『君子危うきに近寄らず』って言うでしょ? 余計なことをして禍を引き寄せても詰まらないわ」
「姐さんは『君子』っていうより『団子』って感じ?」
「あら、言うわね。丸太棒(まるたんぼう)みたいな体格のクセに」
「やぁね。ちょびっと節くらいは有るわよ」
 翡翠が自分の胸の辺りを撫でさすり、2人でゲラゲラ笑い合う。笑いのツボが上級者すぎる。うっかり首も突っ込めない。
「まぁ、魚虎には甘えん坊の娘御がいるからな。肝試しに引っ張り出したら、娘御に恨まれよう」
 鶹が上手い具合に助け舟を出した。
「代わりに、吾が行くわ!」
 それまで様子を伺っていた鸞が、突然手を上げた。
「何の代わりだよ」
 鸞の言い様に思わず突っ込みを入れてしまった。いや、助っ人と言う意味では大変頼りになるのだが、精鋭の皆さんには「何のことか」だろうに……。 
「まぁ! 勇敢ねぇ! でも、鸞ちゃんにはちょっと怖すぎるかもよ?」
 翡翠が身をかがめて鸞を心配げに見た。鸞はニッコリ笑みを作ると胸を張って答えた。
「吾には強くて麗しい姉様たちが付いておるでな! 安心して怖がれるわ!」
「あらまぁ嬉しいことを!」
 翡翠が鸞を抱きしめて、むぎゅむぎゅと頬ずりをした。誠に、お姉様たちは愛情表現が大胆だ。
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登場人物紹介

白雀(はくじゃく)

下級仕官の四男。戦では「花方」と呼ばれる切り込み隊の一人。

自他ともに認める朴念仁。堅物なくらいに真面目な性格。

新嘗祭の奉納舞ではトリを勤める舞の名手。

鸞(らん)

「久生(くう)」と呼ばれる魂を喰らう無形の神様。

白雀を気に入って自分の食物認定して付き纏う。

相手によって姿形を変えるが、白雀の前では5歳の童の姿でいることが多い。

傲岸不遜で態度がデカい上、戦闘能力も高い。

久生はもともと死者の魂を召し上げる役割を持つが、鸞の場合、生きている者から魂を引っこ抜くこともする。


波武(はむ)

実の名は「大波武」。成人男性を軽々背負える程の大きな白狼の姿の「尸忌(しき)」。

尸忌は、屍を召して地に返す役割を持つ神。

白雀の屍を召し損ねて以降、他に取られないように、何くれと力になる。

鳰(にお)

神に御身を御饌(みけ)に捧げる「夜光杯の儀」の贄にされ、残った右目と脳をビスクの頭部に納めた改造人間。

医術師の梟(きょう)の施療院で働いている。瀕死の白雀を看護した。

阿比(あび)

死者を弔う際に久生を呼び下ろす「謳い」。

屋代に所属しない「流しの謳い」を生業としており、波武、鸞とは古くからの知り合い。

遠仁相手に幾度となく修羅場を潜り抜けている。細かいことは気にしない性格。

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