拾われたもの 2

文字数 506文字

「ここ……は?」
 
 声にならないかすれた息を絞り出した。

「前線から大分下がったところに確保した輜重(しちょう)隊の基地だ」
 輜重(しちょう)……後方支援基地か。

 男は俺の身体を支えながら、ゆっくりと姿勢を戻した。

「ここでは応急処置くらいしか出来ん。意識が戻ったのであれば、更に医術の整った本陣へ回そう」

「……あ」

「心配せんでいい。そもそも

おる」

 選んで……。
 ああ、そうか……、俺は「生かせ」と言われたのだな。
 とりあえず、その価値はあるモノと(もく)されたのだ。
 でなければ、敵陣の中わざわざ拾いに来るものもおるまい。
 命を繋いだ喜びよりも、カラクリの種明かしを見たような感覚が先に立った。

(にお)! 手は空くか? コヤツの搬送を頼みたい」

 男がどこぞへ呼ばわると、視界に新たな影が差した。
 つるりとした形に、ハッとして視線を移す。

 足元に立っていたのは、見たこともない者だった。
 ビスクの被り物のような白い頭に、目のところだけが穿(うが)たれ、鼻と口のあたりに微妙な造形を施した飾り気のない(おもて)。首から下は肌理(きめ)の分らぬ衣装で覆われている。
 
 自動人形か人造人間か? 

 (いぶか)っているところを、男が説明した。

「驚かせたな。この子は(にお)という。

だ」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

白雀(はくじゃく)

下級仕官の四男。戦では「花方」と呼ばれる切り込み隊の一人。

自他ともに認める朴念仁。堅物なくらいに真面目な性格。

新嘗祭の奉納舞ではトリを勤める舞の名手。

鸞(らん)

「久生(くう)」と呼ばれる魂を喰らう無形の神様。

白雀を気に入って自分の食物認定して付き纏う。

相手によって姿形を変えるが、白雀の前では5歳の童の姿でいることが多い。

傲岸不遜で態度がデカい上、戦闘能力も高い。

久生はもともと死者の魂を召し上げる役割を持つが、鸞の場合、生きている者から魂を引っこ抜くこともする。


波武(はむ)

実の名は「大波武」。成人男性を軽々背負える程の大きな白狼の姿の「尸忌(しき)」。

尸忌は、屍を召して地に返す役割を持つ神。

白雀の屍を召し損ねて以降、他に取られないように、何くれと力になる。

鳰(にお)

神に御身を御饌(みけ)に捧げる「夜光杯の儀」の贄にされ、残った右目と脳をビスクの頭部に納めた改造人間。

医術師の梟(きょう)の施療院で働いている。瀕死の白雀を看護した。

阿比(あび)

死者を弔う際に久生を呼び下ろす「謳い」。

屋代に所属しない「流しの謳い」を生業としており、波武、鸞とは古くからの知り合い。

遠仁相手に幾度となく修羅場を潜り抜けている。細かいことは気にしない性格。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み