磯の鮑 15
文字数 1,219文字
烏衣は突然現れた鸞の姿に、怒気を露わにした。
「邪魔立てするでない! 去ねや! 貴様には関係ないだろう!」
まるで、鸞が何であるかを知っているかのような口ぶりだった。俺は眉を顰め、顔を歪めて凄む烏衣を訝った。烏衣は、この姿の鸞を知らないはずだ。
鸞は、烏衣を小馬鹿にしたように鼻で笑った。
「ちょいと、吾 が目を離した隙に、油断も隙もあったものではないな。これは、吾のモノだ! 御前が気安く触れて良いものではない! 去ぬのは御前の方だ!」
「貴様は魂さえ喰えればよいのだから、妾がどうしようと関係のない話であろうが!」
やはり、烏衣は、鸞が久生だと解っている。
烏衣が右手を振り上げて鸞に向けて突き出した。
すかさず鸞が両手を広げて振り下ろす。
俺の目の前でバチリと音を立てて何かが弾けた。
この力は、……鸞と同じ?
「ふん。そういうわけか」
鸞は衣擦れの音を立てて烏衣の傍まで歩み寄った。烏衣が行動を起こす前に、左手でその頭をガッシと掴みこむ。
「なっ! 何をしやる!」
烏衣が鸞の手を剥ぎ取ろうと腕をつかむが、どうにもほどける様子がない。ジタバタと手足を藻掻く烏衣の口から獣の威嚇のごとき唸りが漏れた。
「おい! 白雀」
振り向いた鸞は、俺が吊るされたままで身動きが取れない様だったのに初めて気付いたという顔をした。
「主、何をしておるのだ?」
「遊んでいるように見えるか?」
俺は恨みがましく答えた。鸞が目を瞬く。
「いや、……随分とあられもない格好であるな」
鸞は首を傾げてから、右手指を弾いた。俺の手を縛 めていた綱が、手首の際でブツリと切れる。ストンと腰が落ち、へたり込むような格好になった俺は、まず右手首を確かめた。よかった。鳰の玉の緒は付いたままであった。両腕を抉 って手首を繋いでいた綱を引きはがす。
「吾が、コヤツから遠仁を抜くから、逃げられぬうちにすぐさま喰ってやれ」
なんだそれは? また、新たな段取であるな。
俺は赤く縛めの跡が残る手首をさすって、左の腕を烏衣へと突き出した。俺の準備が出来たと見るや、鸞は烏衣に向き直り目を閉じて一息ついた。
烏衣はこれから起こることを予見してか、一層暴れ始めたが鸞は微動だにしない。次の瞬間、鸞がカッと目を開くと、烏衣の動きが止まった。鸞の左手が、ゆっくりと烏衣から離れ、烏衣の頭から何かを引き出す手つきになる。
つるりと現れた青白い玉が、ふわりと揺れ動いた。
ソレがそのまま烏衣の身体から逃れ飛んで行かんとした時、俺の左掌から丹い光が放たれて一気に吸い込んだ。
烏衣の身体がくたりと床に崩れる。
「ったく……。選り好みばかりしやるから、婚期を逃すのよ。若さは永遠ではない。
鸞は吐き捨てるように言うと、烏衣に触れていた手を厭わし気にはたいた。しどけない格好で伸びている烏衣から目を背けながら、俺は衣を掛けてやった。
「邪魔立てするでない! 去ねや! 貴様には関係ないだろう!」
まるで、鸞が何であるかを知っているかのような口ぶりだった。俺は眉を顰め、顔を歪めて凄む烏衣を訝った。烏衣は、この姿の鸞を知らないはずだ。
鸞は、烏衣を小馬鹿にしたように鼻で笑った。
「ちょいと、
「貴様は魂さえ喰えればよいのだから、妾がどうしようと関係のない話であろうが!」
やはり、烏衣は、鸞が久生だと解っている。
烏衣が右手を振り上げて鸞に向けて突き出した。
すかさず鸞が両手を広げて振り下ろす。
俺の目の前でバチリと音を立てて何かが弾けた。
この力は、……鸞と同じ?
「ふん。そういうわけか」
鸞は衣擦れの音を立てて烏衣の傍まで歩み寄った。烏衣が行動を起こす前に、左手でその頭をガッシと掴みこむ。
「なっ! 何をしやる!」
烏衣が鸞の手を剥ぎ取ろうと腕をつかむが、どうにもほどける様子がない。ジタバタと手足を藻掻く烏衣の口から獣の威嚇のごとき唸りが漏れた。
「おい! 白雀」
振り向いた鸞は、俺が吊るされたままで身動きが取れない様だったのに初めて気付いたという顔をした。
「主、何をしておるのだ?」
「遊んでいるように見えるか?」
俺は恨みがましく答えた。鸞が目を瞬く。
「いや、……随分とあられもない格好であるな」
鸞は首を傾げてから、右手指を弾いた。俺の手を
「吾が、コヤツから遠仁を抜くから、逃げられぬうちにすぐさま喰ってやれ」
なんだそれは? また、新たな段取であるな。
俺は赤く縛めの跡が残る手首をさすって、左の腕を烏衣へと突き出した。俺の準備が出来たと見るや、鸞は烏衣に向き直り目を閉じて一息ついた。
烏衣はこれから起こることを予見してか、一層暴れ始めたが鸞は微動だにしない。次の瞬間、鸞がカッと目を開くと、烏衣の動きが止まった。鸞の左手が、ゆっくりと烏衣から離れ、烏衣の頭から何かを引き出す手つきになる。
つるりと現れた青白い玉が、ふわりと揺れ動いた。
ソレがそのまま烏衣の身体から逃れ飛んで行かんとした時、俺の左掌から丹い光が放たれて一気に吸い込んだ。
烏衣の身体がくたりと床に崩れる。
「ったく……。選り好みばかりしやるから、婚期を逃すのよ。若さは永遠ではない。
まずい
据え膳を食いに行く物好きは早々居らぬ。欲ばかりが肥大した年増に、誰ぞ振り向くか」鸞は吐き捨てるように言うと、烏衣に触れていた手を厭わし気にはたいた。しどけない格好で伸びている烏衣から目を背けながら、俺は衣を掛けてやった。