堕ちた片翼 2
文字数 711文字
「ここは施療院だ。どこぞ具合の悪いところでもあって来たのか?」
俺が卓について座りかけた時、あ、いや、といいながら鷹鸇が立ち上がった。立ち上がったついでに卓の天板をひっかけて、一本足の円卓が傾く。
あっ、と思う間もなく俺は椅子に座りそこないバランスを崩した。
卓上の湯呑が倒れ、俺の首から吊っている左腕の脇を弧を描いて転がるのを横目に見た。湯呑が床に落ち、派手な音を立てて割れる。俺は椅子から転げて受け身をとれずに腰をしたたか打ち据えた。
「あたた……」
俺は右手で腰をさすりながら、上目に鷹鸇を見上げた。
「すまんな。大丈夫か?」
そう言って、鷹鸇が右手を差し出す。
いや、大丈夫だ、と俺はゆっくり立ち上がり、椅子に座りなおした。
「やはり、……左腕は動かぬのだな」
鷹鸇の呟きに、俺の芯がヒヤリとした。
俺を、試したのか?
冷えた芯に火が燈った。
「ああ。周囲に『死んだ』と思われるほど動けるようになるのに時間がかかったからな。折角命を拾っても、この通りの
カタワ
だから仕官復帰も無理だ。だから、ずっと、ここにすっこんでおる。鷹鸇は……どうなのだ? 無事で帰って、さぞかしたんまり報償をいただいて立派な階級も付いたのではないか?」ムカついた分、ペラペラと口が滑った。
もはや立場上何も関係のない相手だ。なんとでも好きなことが言える。
いつもは不遜な鷹鸇が、渋い顔をして見返した。
よく見れば顔色が良くない。
やはり、どこぞ具合でも悪くしていたのか?
「お前は、戦場を離れて、どうということは無いのか?」
「ん?」
何やら妙なことを言い出したぞ。