紅花染め 15
文字数 688文字
俺の中の衝動が、ふいにぐわりと持ち上がった。
腹の底に力を入れた。
ゴクリと固唾を飲む。
待て……待て……待て……。
無視できない勢いで渦巻くものを必死に宥 める。
鳰が、俺を求めるのは良い。
でも、俺が鳰を求めるのは、違う。
奪って逃げるだけになってしまう。
それは、鳰を不幸にする。
悔いを残さぬように。
それは、鳰だけでなく、俺にも当てはまるはずだ。
俺は、覚えず止めていた息を、ほうっと吐き出した。
「そんな言葉、誰から習い覚えた?」
「……すいれんあねさまに」
素直に答える鳰に、俺は苦笑で返す。
「悪い……姐様だな」
「そうなのか?」
「今の鳰に俺が『すき』を働いたら壊れてしまう」
「そんなことをするのか?」
「ああ。息がつまって青くなる程度じゃ済まぬよ」
「では、しんぞうがもどれば よいのか?」
「ああ……心臓がもどったら、な」
「ちょっとは?」
「なんだ? その『ちょっと』とは?」
「ゆび たびられた くらい」
俺の心臓が跳ねた。
「あれは……あの時は、鸞や阿比の目があったから……。今は、あの程度でも無理だ。俺を殺す気か?」
「なんで? はくりゃくどのが しぬのか?」
「そういうのをな『生殺し』というのだ」
「なまごろし……」
鳰はクソ真面目な顔で目を瞬かせた。
「なら いっしょに やぐに はいってよいか?」
「すまぬ、……無理! 俺が壊れる」
「よかった にお きらわれてなかった」
ぐはぁ!
そんな満面の笑みを向けるな!
頑張れ! 頑張れ、俺の理性!
知らぬというのはマジで厄介だ。
他意が無いだけ最悪だ。
無垢は怖い。
ああ、まだ生きてる。
俺の「欲」は健全だよ、全く!
腹の底に力を入れた。
ゴクリと固唾を飲む。
待て……待て……待て……。
無視できない勢いで渦巻くものを必死に
鳰が、俺を求めるのは良い。
でも、俺が鳰を求めるのは、違う。
奪って逃げるだけになってしまう。
それは、鳰を不幸にする。
悔いを残さぬように。
それは、鳰だけでなく、俺にも当てはまるはずだ。
俺は、覚えず止めていた息を、ほうっと吐き出した。
「そんな言葉、誰から習い覚えた?」
「……すいれんあねさまに」
素直に答える鳰に、俺は苦笑で返す。
「悪い……姐様だな」
「そうなのか?」
「今の鳰に俺が『すき』を働いたら壊れてしまう」
「そんなことをするのか?」
「ああ。息がつまって青くなる程度じゃ済まぬよ」
「では、しんぞうがもどれば よいのか?」
「ああ……心臓がもどったら、な」
「ちょっとは?」
「なんだ? その『ちょっと』とは?」
「ゆび たびられた くらい」
俺の心臓が跳ねた。
「あれは……あの時は、鸞や阿比の目があったから……。今は、あの程度でも無理だ。俺を殺す気か?」
「なんで? はくりゃくどのが しぬのか?」
「そういうのをな『生殺し』というのだ」
「なまごろし……」
鳰はクソ真面目な顔で目を瞬かせた。
「なら いっしょに やぐに はいってよいか?」
「すまぬ、……無理! 俺が壊れる」
「よかった にお きらわれてなかった」
ぐはぁ!
そんな満面の笑みを向けるな!
頑張れ! 頑張れ、俺の理性!
知らぬというのはマジで厄介だ。
他意が無いだけ最悪だ。
無垢は怖い。
ああ、まだ生きてる。
俺の「欲」は健全だよ、全く!