玉の緒 8
文字数 1,273文字
暗闇の中で鴻を顔の前に翳した時、ふと右手首から脈動のようなものを感じた。水面に水滴が滴った時に広がる輪のように、俺の右手首を中心に波が立っているようだ。広がった波は、物に当たるとその輪郭をなぞるように広がっていく。
たちまち、俺は周囲が観得 るようになった。いや、視覚として見るのではなく、波が触れることで形が分かるのだ。肌の感覚でこの場の広さ、周囲の物の位置、物の形が分かる。
そして、目の前に蹲る鬼車の形も……。
声のする位置で測っては居たが、確かにデカい。頭を戴いた多数の長い首がうねうねと絡みながら左右を見渡している様が手に取るように観える。このいずれかが鳰の心臓を含んでいる。一つ一つ落としていく外ないようだ。
「闇雲に相手をしても効率が悪い」
俺の傍まで戻ってきた鸞が囁いた。
「主には見えるか? ヤツの眉間にそれぞれ違う宝珠が埋まっておるのよ」
「うむ」
俺には、宝珠ではなく、モヤモヤとした色が額を彩っているように見える。
「同じ力を使うのであれば、分散させるより各個撃破がより確実であろう。頭を減らしていく作戦でどうだ?」
「承知した。……ではまずあの青白いヤツで」
特に意味はない。一番手前で絡んでいたからだ。
振り向いて梟の位置を確認する。入口の戸の傍に蹲っているのを確かめた。そこに居るのであれば大丈夫だ。
鸞が、俺の背に触れて合意したことを伝えた。
不快な声を鳴きかわしながら、鬼車の首は俺らを探している。闇を好む癖に、目が利かぬのか? それとも、喰えるモノしか目に映らぬ質なのか? 先程より同じ場から動かぬ。
鸞の右手がさし上がり指先が閃いた。何かの飛沫が上がる。けたたましい叫び声をたてて一旦すくめるように首を縮めた「的」が、己に害をなした者を探るように鎌首をもたげた。
その、伸びた首めがけて俺は鴻を振り下ろす。風刃が、俺の右手から発せられる波に勢いを与えて幾重にも重なり、鋭い波動が威力を増して首にめり込んでいくのを感じた。うねうねと蠢いていた首に戴いた他の頭 どもが一斉にこちらに向く気配。
半分首を千切られた頭は奇声を上げながら、無軌道に他の頭にぶち当たりながらのたうつ。
各頭は独立しているのか?
鸞が立ち位置を変えて、千切れそうな首に更なる追い打ちをかける。闇で見えぬが、きっと敵が爆ぜるたびに楽しそうな笑みを浮かべているのであろう。
「これは外れ! 次は、赤いの狙うぞ!」
鸞の声と共に、頭が一つ千切れ飛んだ。俺のすぐ脇に、ぐしゃりと音を立てて落ちる。
青白い光が落ちた首からツイと離れ、俺の周りをグルグルと回り始めた。
なんだ? この動きは……。蜜蜂に寄られたような様だ。
光を目で追ううちに、それは俺の右手首に小さな手応えを加えて留まった。
光に注意を向けていた為、一瞬鬼車から気が逸れた。頭上から鋭い声と共に気配が降ってきて、ハッと気が付き鴻を突き上げた。ずぶと鴻の柄まで吞まれる。頭のすぐ上で魂消る程の奇声が上がり首をすくめた。
ったく……鳰の念波の大音量かよ。まぁ、あちらの方が数億倍可愛げがある。
たちまち、俺は周囲が
そして、目の前に蹲る鬼車の形も……。
声のする位置で測っては居たが、確かにデカい。頭を戴いた多数の長い首がうねうねと絡みながら左右を見渡している様が手に取るように観える。このいずれかが鳰の心臓を含んでいる。一つ一つ落としていく外ないようだ。
「闇雲に相手をしても効率が悪い」
俺の傍まで戻ってきた鸞が囁いた。
「主には見えるか? ヤツの眉間にそれぞれ違う宝珠が埋まっておるのよ」
「うむ」
俺には、宝珠ではなく、モヤモヤとした色が額を彩っているように見える。
「同じ力を使うのであれば、分散させるより各個撃破がより確実であろう。頭を減らしていく作戦でどうだ?」
「承知した。……ではまずあの青白いヤツで」
特に意味はない。一番手前で絡んでいたからだ。
振り向いて梟の位置を確認する。入口の戸の傍に蹲っているのを確かめた。そこに居るのであれば大丈夫だ。
鸞が、俺の背に触れて合意したことを伝えた。
不快な声を鳴きかわしながら、鬼車の首は俺らを探している。闇を好む癖に、目が利かぬのか? それとも、喰えるモノしか目に映らぬ質なのか? 先程より同じ場から動かぬ。
鸞の右手がさし上がり指先が閃いた。何かの飛沫が上がる。けたたましい叫び声をたてて一旦すくめるように首を縮めた「的」が、己に害をなした者を探るように鎌首をもたげた。
その、伸びた首めがけて俺は鴻を振り下ろす。風刃が、俺の右手から発せられる波に勢いを与えて幾重にも重なり、鋭い波動が威力を増して首にめり込んでいくのを感じた。うねうねと蠢いていた首に戴いた他の
半分首を千切られた頭は奇声を上げながら、無軌道に他の頭にぶち当たりながらのたうつ。
各頭は独立しているのか?
鸞が立ち位置を変えて、千切れそうな首に更なる追い打ちをかける。闇で見えぬが、きっと敵が爆ぜるたびに楽しそうな笑みを浮かべているのであろう。
「これは外れ! 次は、赤いの狙うぞ!」
鸞の声と共に、頭が一つ千切れ飛んだ。俺のすぐ脇に、ぐしゃりと音を立てて落ちる。
青白い光が落ちた首からツイと離れ、俺の周りをグルグルと回り始めた。
なんだ? この動きは……。蜜蜂に寄られたような様だ。
光を目で追ううちに、それは俺の右手首に小さな手応えを加えて留まった。
光に注意を向けていた為、一瞬鬼車から気が逸れた。頭上から鋭い声と共に気配が降ってきて、ハッと気が付き鴻を突き上げた。ずぶと鴻の柄まで吞まれる。頭のすぐ上で魂消る程の奇声が上がり首をすくめた。
ったく……鳰の念波の大音量かよ。まぁ、あちらの方が数億倍可愛げがある。