瑞兆 4
文字数 601文字
「母上! 母上!」
急ぎ天覧席へ戻った朱雀は、返事ももどかしく鷦鷯の前に座った。
「なんです? どうしたのですか騒々しい」
鷦鷯が眉を顰めて咎めると、朱雀はゴクリと唾を飲んでから堰を切ったように話し出した。
「あの、先程の舞手は、花鶏殿ではありませぬ!」
「ん? 誰であったのか?」
鷦鷯は訝る顔で朱雀の顔を覗き込んだ。
「名前は、聞き及びませんでしたが、大変に……なんというか、男子で在られるのに、こう……その……ぼうっと見惚れてしまうような御方で……」
「は?」
顔を赤くしてしどろもどろの説明をする我が子に、鷦鷯は小首を傾げた。
「これを母上に渡して欲しいとおっしゃられまして……」
と、朱雀は翡翠の玉の緒を差し出した。
鷦鷯の目がみるみると見開かれ、震える手でそれを受け取る。
「これを?」
「はい。そして、母上に伝言を頼まれました。『此度はお子の成長を祝う節目の儀に参ずることが出来て誠によろしかった』と。『鳰によろしく』と言われましたが、鳰とはどなたのことでありましょうや」
「……朱雀や、この御方は、……未だ楽屋におられるのか?」
「はい。今頃、波武が引き留め置いております」
鷦鷯は思いつめた顔をしてスッと立ち上がった。
「あれ? 母上……」
驚く我が子に構うことなく裳裾を絡げて高座を降りると、急ぎ桟敷の隙を走り出した。
客席のあちこちから、あれ? 御台様が、との声が聞こえるが、気に掛ける暇もなかった。
急ぎ天覧席へ戻った朱雀は、返事ももどかしく鷦鷯の前に座った。
「なんです? どうしたのですか騒々しい」
鷦鷯が眉を顰めて咎めると、朱雀はゴクリと唾を飲んでから堰を切ったように話し出した。
「あの、先程の舞手は、花鶏殿ではありませぬ!」
「ん? 誰であったのか?」
鷦鷯は訝る顔で朱雀の顔を覗き込んだ。
「名前は、聞き及びませんでしたが、大変に……なんというか、男子で在られるのに、こう……その……ぼうっと見惚れてしまうような御方で……」
「は?」
顔を赤くしてしどろもどろの説明をする我が子に、鷦鷯は小首を傾げた。
「これを母上に渡して欲しいとおっしゃられまして……」
と、朱雀は翡翠の玉の緒を差し出した。
鷦鷯の目がみるみると見開かれ、震える手でそれを受け取る。
「これを?」
「はい。そして、母上に伝言を頼まれました。『此度はお子の成長を祝う節目の儀に参ずることが出来て誠によろしかった』と。『鳰によろしく』と言われましたが、鳰とはどなたのことでありましょうや」
「……朱雀や、この御方は、……未だ楽屋におられるのか?」
「はい。今頃、波武が引き留め置いております」
鷦鷯は思いつめた顔をしてスッと立ち上がった。
「あれ? 母上……」
驚く我が子に構うことなく裳裾を絡げて高座を降りると、急ぎ桟敷の隙を走り出した。
客席のあちこちから、あれ? 御台様が、との声が聞こえるが、気に掛ける暇もなかった。