借り 10
文字数 1,260文字
舞っている時は広いと感じる舞台も、刃を交えると途端に狭さを覚える。オマケにこちらは衣装を纏っているので些か動きづらい。
クッソ、袍の裾が邪魔だ……。
俺は隙をみて裾を掴み、絡 げて金帯に挟んだ。
俺が一瞬片手になったのを見て、蓮角の太刀が振り落される。鴻 で受けて太刀筋を逸らせた。二の太刀が来る前に体を交わす。
その時、俺の裲襠 から桴 が零れ落ちた。踏みこんだ際に誤って桴を踏みつけた蓮角の上体が僅かに傾ぐ。
今だ!
俺は鴻を腰にためて蓮角の胴を刺し貫いた。
「ぐっ……ふ………」
蓮角が目を見開き俺を見下ろす。
「……甘い……な」
ニヤリと笑うと、蓮角が逆手に持った太刀を俺の背中から胸へと刺し通した。
「がっ!」
あっつ!
身体が一気に燃え上がった。
蓮角の身体が鴻をのんだまま、ドウッと後ろに倒れる。
俺は己の胸から突き出した剣先を見詰めたままヘタリと四つ這いに蹲った。
喉元にこみ上げた何かを吐き出すと、真赤な血反吐だった。
うう……口の中がクソ不味い。
「……ら………ん!」
しゅうしゅうと息が抜けて声が出ない。
忙しなく目を動かして鸞の姿を探す。
急ぎ駆けつける足音がして、目の端に童子の脚が来た。
「待て! 背が届かぬよ!」
太刀を引き抜こうと伸びあがった足がぴょんぴょんと跳ねる。
童子のままで居るからよ!
と悪態をつきたいが息が漏れる。
そうこうしているうちに目の前が暗くなって光の網目が煌めいた。
「うぐっ……がっ! ケホッ!」
再び血反吐を吐く。
気が付いたら横ざまに倒れていた。
胸元を見ると、太刀は抜かれた後だった。
傍らに座った雎鳩が心配そうに覗き込んでいる。
「ったく、冷や冷やさせるんじゃないわよ! もうちょっと賢く立ち回れないわけ?」
「ほんにのう! 鳰が見たら卒倒しておったよ!」
「ボクちゃんも大概だわ! 悪ふざけが過ぎる!」
雎鳩が頬をふくらませて鸞に抗議している。
ああ、届かぬなどとボケてたアレか。
「ふう……。衣装を一式駄目にしてしまったな」
起き上がった俺は、血まみれの舞装束を見てしみじみ溜息を付いた。
これは相当高価なものだ。弁償しろと言われたら、どうすれば良いものやら。
「ほれ、取っておいたぞ」
鸞が鴻 と、青い玉を差し出した。
これは、……蓮角の魂か。死にたての癖に既に遠仁のような色だな。
そう言えば、蓮角は……?
と頭を巡らせると、先程桟敷で様子をうかがっていた臣たちが、舞台の中央でひっくり返っている蓮角の骸を囲んで何事か話し合っていた。
黙って様子をうかがっていると、臣の一人が俺らの方へ向いた。
「若様は、遠仁が憑依されて亡くなられたということで、他言は無用に願います」
ああ、いや、その通り遠仁憑きであったので、ソレに異存はない。元から人望もなく持て余し気味であったのだろうな。正直ホッとした者もおるやも知れず。
ぺこりと頭を下げた俺の顔を、臣が二度見した。それを見て、他の臣たちもこちらを見た。皆、一様に口元を覆って怯えた目をしている。
「あ……」
俺、死んだと思われてたのか。
クッソ、袍の裾が邪魔だ……。
俺は隙をみて裾を掴み、
俺が一瞬片手になったのを見て、蓮角の太刀が振り落される。
その時、俺の
今だ!
俺は鴻を腰にためて蓮角の胴を刺し貫いた。
「ぐっ……ふ………」
蓮角が目を見開き俺を見下ろす。
「……甘い……な」
ニヤリと笑うと、蓮角が逆手に持った太刀を俺の背中から胸へと刺し通した。
「がっ!」
あっつ!
身体が一気に燃え上がった。
蓮角の身体が鴻をのんだまま、ドウッと後ろに倒れる。
俺は己の胸から突き出した剣先を見詰めたままヘタリと四つ這いに蹲った。
喉元にこみ上げた何かを吐き出すと、真赤な血反吐だった。
うう……口の中がクソ不味い。
「……ら………ん!」
しゅうしゅうと息が抜けて声が出ない。
忙しなく目を動かして鸞の姿を探す。
急ぎ駆けつける足音がして、目の端に童子の脚が来た。
「待て! 背が届かぬよ!」
太刀を引き抜こうと伸びあがった足がぴょんぴょんと跳ねる。
童子のままで居るからよ!
と悪態をつきたいが息が漏れる。
そうこうしているうちに目の前が暗くなって光の網目が煌めいた。
「うぐっ……がっ! ケホッ!」
再び血反吐を吐く。
気が付いたら横ざまに倒れていた。
胸元を見ると、太刀は抜かれた後だった。
傍らに座った雎鳩が心配そうに覗き込んでいる。
「ったく、冷や冷やさせるんじゃないわよ! もうちょっと賢く立ち回れないわけ?」
「ほんにのう! 鳰が見たら卒倒しておったよ!」
「ボクちゃんも大概だわ! 悪ふざけが過ぎる!」
雎鳩が頬をふくらませて鸞に抗議している。
ああ、届かぬなどとボケてたアレか。
「ふう……。衣装を一式駄目にしてしまったな」
起き上がった俺は、血まみれの舞装束を見てしみじみ溜息を付いた。
これは相当高価なものだ。弁償しろと言われたら、どうすれば良いものやら。
「ほれ、取っておいたぞ」
鸞が
これは、……蓮角の魂か。死にたての癖に既に遠仁のような色だな。
そう言えば、蓮角は……?
と頭を巡らせると、先程桟敷で様子をうかがっていた臣たちが、舞台の中央でひっくり返っている蓮角の骸を囲んで何事か話し合っていた。
黙って様子をうかがっていると、臣の一人が俺らの方へ向いた。
「若様は、遠仁が憑依されて亡くなられたということで、他言は無用に願います」
ああ、いや、その通り遠仁憑きであったので、ソレに異存はない。元から人望もなく持て余し気味であったのだろうな。正直ホッとした者もおるやも知れず。
ぺこりと頭を下げた俺の顔を、臣が二度見した。それを見て、他の臣たちもこちらを見た。皆、一様に口元を覆って怯えた目をしている。
「あ……」
俺、死んだと思われてたのか。