羽化(鬼車退治後顛末) 3
文字数 1,169文字
周囲はシャラシャラという涼やかな音に包まれた。
天井から降りそそぐ丹い花弁は、ヒラヒラと辺りに舞い散る。光の炎を纏っているが、触れてもほんのり温みを感ずるほどで熱くはない。明るい光の下に晒らされた鬼車の醜悪な死骸の上にも降り積もる。花弁が鬼車の黒ずんだ羽根に触れると、シュッという僅かな音を立てて光の炎を上げた。やがて、鬼車の死骸はとろとろと揺れる柔らかな炎に包まれて輝きだした。
(ボクちゃん、白雀から玉の緒と合口を貰い受けて、魂にかざしてくれる?)
ポカンとしていた鸞は、ハッとして白雀の亡骸を探って合口を探しだし、右手首の玉の緒とともに丹く燃える魂にかざした。
玉の緒と合口は、鸞の手から大輪の炎の花に吸い込まれる。
花の中心がグルグルと渦巻き、細い炎の花弁が辺りに広がった。
否、それは、玉の緒に繋がっていたそれぞれの玉。九つの玉は炎の軌跡を描いて、とろとろと燃え立つ鬼車の死骸に吸い込まれた。
続いて、炎の花の天辺から、つるりとした女の背中が……白い項 と黒髪がのぞいてゆるりと立ち上がった。豊満な身体にまとう薄衣が炎に炙られて踊る。
「鴻 か……」
鸞が目をパチクリさせる。
鴻は、鸞、波武を見下ろしてニコリと微笑んだ。
(蛟の身体を失って久しい鴻 に、新しい神の肉が用意できたわ。いつまでも合口の中ではさすがに狭いでしょう?)
「え? 新しい神の肉? それ、まさか、鬼車のことか?」
鸞は戸惑いの声を上げた。
鴻が炎の花からふわりと躍り出て、今はただ光の塊と化した鬼車の死骸に向けて吸い込まれていった。あまりの眩しさに、鸞は思わず袖で顔を覆う。
シャラシャラという音に、笙の音が重なった。
一体、誰が笙を奏しているのかと袖から顔を覗かせた鸞は、目の前で鳴きかわす巨大な鳳たちを見て仰天した。一つの胴から九つの頭が生えている。
「なんぞ? これ……。阿比の言うておった『九鳳 』というやつか?」
紅い翼を羽ばたかせて、盛んに典雅な音色を辺りに振り撒く。
(あら。鴻は、新しい器が気に入ったようね。よかったわ)
笑いを含んだ伯労の声が響いた。
「どういうことだ? 何が起こっておるのだ?」
狼狽える鸞をなだめるように伯労の声が続く。
(仙丹が遠仁を欲するのはその不死不滅の力を維持するがため……だったんだけどね。白雀の魂と馴染んでしまったら不死不滅の為だけではなく遠仁を雪 ぐようになっちゃったのよ。理由なんてわかんないわ。久生が魂を召して「境」へ送るのと同じように、白雀も遠仁を雪いで「境」へ導いている。まぁ、箍 に収まりきらなくなっちゃったの。で、今のコレは、肉から解放された白雀がその浄化能力をいかんなく発揮してる最中ってわけ)
天井から降りそそぐ丹い花弁は、ヒラヒラと辺りに舞い散る。光の炎を纏っているが、触れてもほんのり温みを感ずるほどで熱くはない。明るい光の下に晒らされた鬼車の醜悪な死骸の上にも降り積もる。花弁が鬼車の黒ずんだ羽根に触れると、シュッという僅かな音を立てて光の炎を上げた。やがて、鬼車の死骸はとろとろと揺れる柔らかな炎に包まれて輝きだした。
(ボクちゃん、白雀から玉の緒と合口を貰い受けて、魂にかざしてくれる?)
ポカンとしていた鸞は、ハッとして白雀の亡骸を探って合口を探しだし、右手首の玉の緒とともに丹く燃える魂にかざした。
玉の緒と合口は、鸞の手から大輪の炎の花に吸い込まれる。
花の中心がグルグルと渦巻き、細い炎の花弁が辺りに広がった。
否、それは、玉の緒に繋がっていたそれぞれの玉。九つの玉は炎の軌跡を描いて、とろとろと燃え立つ鬼車の死骸に吸い込まれた。
続いて、炎の花の天辺から、つるりとした女の背中が……白い
「
鸞が目をパチクリさせる。
鴻は、鸞、波武を見下ろしてニコリと微笑んだ。
(蛟の身体を失って久しい
「え? 新しい神の肉? それ、まさか、鬼車のことか?」
鸞は戸惑いの声を上げた。
鴻が炎の花からふわりと躍り出て、今はただ光の塊と化した鬼車の死骸に向けて吸い込まれていった。あまりの眩しさに、鸞は思わず袖で顔を覆う。
シャラシャラという音に、笙の音が重なった。
一体、誰が笙を奏しているのかと袖から顔を覗かせた鸞は、目の前で鳴きかわす巨大な鳳たちを見て仰天した。一つの胴から九つの頭が生えている。
「なんぞ? これ……。阿比の言うておった『
紅い翼を羽ばたかせて、盛んに典雅な音色を辺りに振り撒く。
(あら。鴻は、新しい器が気に入ったようね。よかったわ)
笑いを含んだ伯労の声が響いた。
「どういうことだ? 何が起こっておるのだ?」
狼狽える鸞をなだめるように伯労の声が続く。
(仙丹が遠仁を欲するのはその不死不滅の力を維持するがため……だったんだけどね。白雀の魂と馴染んでしまったら不死不滅の為だけではなく遠仁を
らしい
っちゃあらしい
わよね。白雀、優しいもん。でもね、あんまりやりすぎてさ、雪ぐ力はどんどん強くなって「ヒトの肉」と言う