瑞兆 3
文字数 517文字
波武は、楽屋の戸の前で、丁度出てきた朱雀とかち合った。
つい先ごろまでは、子ども子どもと思っていた若君も、髷を結って冠を戴くと一端 の大人に映る。ほやほやの赤子の頃から護りをまかされていた波武には、鷦鷯の心配も解らないではない。子どもというモノは時を味方に付け、あっと言う間に独り立ちをする。こちらの気持ちが追いつかない。
「おや? 波武。どうした?」
波武を認めて僅かに眉間に皺を寄せた朱雀は、ニヤッと口の端を上げた。
「母だな? 全く過保護が過ぎるわ。楽屋までで迷子になるとでも思うたのか?」
「そうではござりませぬよ。旧知が来ておると聞き及びまして、罷りこした次第。若とは関係ござらぬ」
「ほう!」
朱雀はちょっと驚いたという顔で今出てきた戸に振り向いた。
「彼のお方をご存知か。もっとお話がしたいのだが……母への伝言を賜ってな、一旦戻って来る。波武、是非引き留めておいてくれ」
「……その保障は致しかねますが?」
「いや、是非に頼むぞ!」
朱雀はそう言い置いて、パタパタと廻廊の先へ走って行った。
いやいや、元気の良いことで、と波武は笑みを浮かべて見送ると、楽屋の戸を叩いた。
「おう! 聞こえておったぞ。入れよ」
内から懐かしい声がした。
つい先ごろまでは、子ども子どもと思っていた若君も、髷を結って冠を戴くと
「おや? 波武。どうした?」
波武を認めて僅かに眉間に皺を寄せた朱雀は、ニヤッと口の端を上げた。
「母だな? 全く過保護が過ぎるわ。楽屋までで迷子になるとでも思うたのか?」
「そうではござりませぬよ。旧知が来ておると聞き及びまして、罷りこした次第。若とは関係ござらぬ」
「ほう!」
朱雀はちょっと驚いたという顔で今出てきた戸に振り向いた。
「彼のお方をご存知か。もっとお話がしたいのだが……母への伝言を賜ってな、一旦戻って来る。波武、是非引き留めておいてくれ」
「……その保障は致しかねますが?」
「いや、是非に頼むぞ!」
朱雀はそう言い置いて、パタパタと廻廊の先へ走って行った。
いやいや、元気の良いことで、と波武は笑みを浮かべて見送ると、楽屋の戸を叩いた。
「おう! 聞こえておったぞ。入れよ」
内から懐かしい声がした。