さえずり 9

文字数 737文字

「其の方らが困っておるようだったから、()く何らかの策を立てねばと思い、役に立ちそうな情報を集めるために東奔西走したのだぞ。文句を言われる筋合いはないと思うが?」
 足湯を使い、白湯を喫して一息つきながらも阿比はまだ臍を曲げている。鸞も引っ込みがつかなくなったのか、白湯のはいった湯呑を手にプスンとむくれたままだ。
 まぁ、仲の良いことで……、と言ったら俺がしばき倒されそうであるが。

「で、その情報とやらを得にどこまで参っておられたのだ?」
 小上がりの板の間に座って阿比に水を向けると、白湯を一口飲んで阿比が応じた。
「俺の、師匠の処よ。広く、隣国の土地とも繋ぎのある御方だ」
「ほう」
 阿比の師匠殿の話は初めて聞く。
「『鬼車』というモノは、古くは『九鳳(くほう)』と言って南方の神鳥であったそうだよ」
「神鳥? ということは、吉祥の瑞獣ではないか。それが何故に地下深くに棲まう祟り神のような様になっているのだ?」
「……それは、神代の争いで破れた所為であると聞いた。瑞獣の名残として、それぞれの頭が宝玉(ほうぎょく)を戴いて居るのだそうだよ。元より力のあるモノであるようだ」
「ふむ……」
 俺は顎に手を当てて、唸った。
「波武からは、……光が苦手であるとは聞き及んだが。あと、どうやら今は国主鵠殿に憑りついて居るらしい」
「なるほど、居場所は判っておるのだな」
 阿比はまた、白湯を啜った。

 あ……、そうか。
 俺はふいと顔を上げた。鸞に目配せする。
「なぁ、阿比殿が帰ってまいったのであれば、鳰を護る者には困らぬのであるよな」
「だな。それが、どうしたというのだ?」
 鸞が眉間に皺を寄せてこちらを見た。
「鸞は、鳰に化けることは出来ぬか?」
「!」
 鸞の瞳がキラリと瞬く。
「そうか! その手があったな! 白雀! 頭が良いな!」
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登場人物紹介

白雀(はくじゃく)

下級仕官の四男。戦では「花方」と呼ばれる切り込み隊の一人。

自他ともに認める朴念仁。堅物なくらいに真面目な性格。

新嘗祭の奉納舞ではトリを勤める舞の名手。

鸞(らん)

「久生(くう)」と呼ばれる魂を喰らう無形の神様。

白雀を気に入って自分の食物認定して付き纏う。

相手によって姿形を変えるが、白雀の前では5歳の童の姿でいることが多い。

傲岸不遜で態度がデカい上、戦闘能力も高い。

久生はもともと死者の魂を召し上げる役割を持つが、鸞の場合、生きている者から魂を引っこ抜くこともする。


波武(はむ)

実の名は「大波武」。成人男性を軽々背負える程の大きな白狼の姿の「尸忌(しき)」。

尸忌は、屍を召して地に返す役割を持つ神。

白雀の屍を召し損ねて以降、他に取られないように、何くれと力になる。

鳰(にお)

神に御身を御饌(みけ)に捧げる「夜光杯の儀」の贄にされ、残った右目と脳をビスクの頭部に納めた改造人間。

医術師の梟(きょう)の施療院で働いている。瀕死の白雀を看護した。

阿比(あび)

死者を弔う際に久生を呼び下ろす「謳い」。

屋代に所属しない「流しの謳い」を生業としており、波武、鸞とは古くからの知り合い。

遠仁相手に幾度となく修羅場を潜り抜けている。細かいことは気にしない性格。

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