入れ子 2
文字数 1,126文字
それは伯労 らの思惑とは全く別の因縁を辿る糸であったらしい。
当時、中級仕官の出で、体格と素質を買われた鷹鸇は、歌舞を好む当時の国主殿の覚えが目出度かった。隊の予備練を出て直ぐ仕込まれ、俺が出会う頃には舞手として一目置かれる存在になっていたのだから相当であったのだろう。鵠はまだ領主としての嫡位は低く、その子の蓮角も武勲と言う意味ではさほど目立つ存在ではなかったが、国主一族の血縁でありその容姿から女の噂の切れぬ身の上であったようだ。
「都から声がかかった時、鷹鸇はもともとの謙虚な性格から躊躇い、国主一族の血を引いた女好きの蓮角が『どうせ顔は分からぬ』と桟敷に招かれた、と、そういうことよ」
伯労の話に、俺は眉間に皺を寄せ、神妙な顔をした。さもありなん、だ。
「で、伯労は何故その顛末を知っておるのか?」
「鷹鸇本人から聞いたからよ」
「は?」
「これは、雎鳩も知らない話」
伯労は口元に人差し指を当てて徒っぽく笑った。
「雎鳩が入水自殺を図ったと聞いて、鷹鸇が兵部大丞家に見舞いに来たのよ。雎鳩は未だ意識が戻っていなかったから、代わりに私が対応しておいたの」
「なんと………」
「『白雀を護るために付いた嘘で、かようなことになって申し訳ない』ってね」
「………」
俺は目を見開いたまま次の言葉を継げなかった。
そんな俺の顔を見て、伯労は悲し気に笑って目を伏せた。
「国主一族の動向を見ていたから、戦のどさくさで何をしようとしてるのかは知ってたわ。戦傷を受けた兵に仙丹を植え付けて効果を見るだなんて、何と言う非情な実験をするのかと思った。その中の一人が、白雀、あんただった。あんただけは、蓮角の恨みで槍玉にあげられた候補だったのよ。だから、あえて重傷を負うように戦禍に放り込まれた。鷹鸇が背中を護る相棒だったんでしょ? 途中で消えなかった?」
「あ……でも、それは、戦場では詮の無いことで……」
「ほんと、優しいのね。真の理由はね、鵠から賜った妖刀を携えた雁 に騙し討ちにされていたから。だから、鷹鸇は貴方の元に駆けつけられなかったの」
「なっ………」
鷹鸇が雁の刀を持っていたのは……。
元は鵠の持ち物と善知鳥 が言っていたのも……。
物語の欠片が、一つ一つはまっていく。
「あんたが、梟殿の施療院に収容されたことで、鷹鸇はあんたにだけ仙丹が定着したことを知った。これ以上、国主一族に付き纏われて貴方の人生が台無しになることを憂いて、鷹鸇はあんたが死んだと嘘の噂を流したのよ」
「……なぜ、鷹鸇はそれほどまでに、俺を……」
「それは、自分と同じく早くから舞の才能を認められたという親近感。あんたが、可愛くて仕方なかったのね。それと、……国主一族に、自分の人生を台無しにされたから……」
当時、中級仕官の出で、体格と素質を買われた鷹鸇は、歌舞を好む当時の国主殿の覚えが目出度かった。隊の予備練を出て直ぐ仕込まれ、俺が出会う頃には舞手として一目置かれる存在になっていたのだから相当であったのだろう。鵠はまだ領主としての嫡位は低く、その子の蓮角も武勲と言う意味ではさほど目立つ存在ではなかったが、国主一族の血縁でありその容姿から女の噂の切れぬ身の上であったようだ。
「都から声がかかった時、鷹鸇はもともとの謙虚な性格から躊躇い、国主一族の血を引いた女好きの蓮角が『どうせ顔は分からぬ』と桟敷に招かれた、と、そういうことよ」
伯労の話に、俺は眉間に皺を寄せ、神妙な顔をした。さもありなん、だ。
「で、伯労は何故その顛末を知っておるのか?」
「鷹鸇本人から聞いたからよ」
「は?」
「これは、雎鳩も知らない話」
伯労は口元に人差し指を当てて徒っぽく笑った。
「雎鳩が入水自殺を図ったと聞いて、鷹鸇が兵部大丞家に見舞いに来たのよ。雎鳩は未だ意識が戻っていなかったから、代わりに私が対応しておいたの」
「なんと………」
「『白雀を護るために付いた嘘で、かようなことになって申し訳ない』ってね」
「………」
俺は目を見開いたまま次の言葉を継げなかった。
そんな俺の顔を見て、伯労は悲し気に笑って目を伏せた。
「国主一族の動向を見ていたから、戦のどさくさで何をしようとしてるのかは知ってたわ。戦傷を受けた兵に仙丹を植え付けて効果を見るだなんて、何と言う非情な実験をするのかと思った。その中の一人が、白雀、あんただった。あんただけは、蓮角の恨みで槍玉にあげられた候補だったのよ。だから、あえて重傷を負うように戦禍に放り込まれた。鷹鸇が背中を護る相棒だったんでしょ? 途中で消えなかった?」
「あ……でも、それは、戦場では詮の無いことで……」
「ほんと、優しいのね。真の理由はね、鵠から賜った妖刀を携えた
「なっ………」
鷹鸇が雁の刀を持っていたのは……。
元は鵠の持ち物と
物語の欠片が、一つ一つはまっていく。
「あんたが、梟殿の施療院に収容されたことで、鷹鸇はあんたにだけ仙丹が定着したことを知った。これ以上、国主一族に付き纏われて貴方の人生が台無しになることを憂いて、鷹鸇はあんたが死んだと嘘の噂を流したのよ」
「……なぜ、鷹鸇はそれほどまでに、俺を……」
「それは、自分と同じく早くから舞の才能を認められたという親近感。あんたが、可愛くて仕方なかったのね。それと、……国主一族に、自分の人生を台無しにされたから……」