瑞兆 2
文字数 600文字
朱雀が向かったのは番舞 の楽屋だ。『蘭陵王』を舞った花鶏に
波武は、見物客の人混みをぬって楽屋へと向かった。
舞台と楽屋を繋ぐ廻廊で、腕組みをして今演じられている『落蹲 』を眺めている男の姿を認めて、波武は目を瞬く。
「おや……花鶏殿、何故此処に?」
「ああ、波武殿か」
花鶏は波武の姿を認めて破顔した。朱の袴に白い上着という舞衣装の内着姿である。彼は、城下の警邏隊の隊長を勤めた頃から、その人望を買われて順当に召し上げられ、今では「備 」と呼ばれる一個師団の士大将である。舞の名手の孫弟子として新嘗の奉納舞では舞手全般の指南役の責を負う身でもある。
楽屋に居ると思ったのに、何故ここに居るのか、と波武は訝った。
「若に会わなんだか?」
「ああ、今、楽屋に行っておる」
「先の舞は……花鶏殿では無かったのか?」
波武が不思議そうに首を傾げると、花鶏は肩をすくめて徒小僧のような笑みを浮かべた。
「此度は祝いだと言われてな、俺に代われと言うのよ。相変わらず舞の好きな御方だ」
「なんと! 来ておられたのか!」
波武はハッと楽屋の方へ視線を向けた。
「久しぶりであるな」
「いや、ちょくちょく我の指南に来て御座った。御台様 にはくれぐれも内密にと緘口を布 かれておったがな。もう潮時と思われたようだよ」
「あの御方らしい……」
波武はふっと笑みを漏らすと、袖を翻して楽屋へ続く廻廊へと向かった。
おひねり
である花代を持って行ったのだ。波武は、見物客の人混みをぬって楽屋へと向かった。
舞台と楽屋を繋ぐ廻廊で、腕組みをして今演じられている『
「おや……花鶏殿、何故此処に?」
「ああ、波武殿か」
花鶏は波武の姿を認めて破顔した。朱の袴に白い上着という舞衣装の内着姿である。彼は、城下の警邏隊の隊長を勤めた頃から、その人望を買われて順当に召し上げられ、今では「
楽屋に居ると思ったのに、何故ここに居るのか、と波武は訝った。
「若に会わなんだか?」
「ああ、今、楽屋に行っておる」
「先の舞は……花鶏殿では無かったのか?」
波武が不思議そうに首を傾げると、花鶏は肩をすくめて徒小僧のような笑みを浮かべた。
「此度は祝いだと言われてな、俺に代われと言うのよ。相変わらず舞の好きな御方だ」
「なんと! 来ておられたのか!」
波武はハッと楽屋の方へ視線を向けた。
「久しぶりであるな」
「いや、ちょくちょく我の指南に来て御座った。
「あの御方らしい……」
波武はふっと笑みを漏らすと、袖を翻して楽屋へ続く廻廊へと向かった。