銀花 4
文字数 842文字
「死んでしまえば口が利けぬ。何故そのようなことが解るのだ?」
「男の2人連れの片方が、ほだされて赤子を抱えたところ凍えて死にそこなってな、あと一人が救ったことがあったのだ。赤子と見えたモノは雪を固めたものだったそうだよ」
「へぇ……」
俺は鸞と顔を見合わせた。
幽霊? 遠仁とは違うのか?
「ソヤツが出たら、どうすればよいのだ?」
「無視。徹底的に知らん顔するしかない。うちの親父殿くらいジジイになると流石にちょっかいを掛けてこぬが、白雀あたりだと出るぞ。保障してやる」
そういうのを保障と言っていいのかどうか些か疑問だが、どうやら出るのは確定っぽい。
「ということは、企鵝は会わぬのか」
「うん。女子には見えぬのよ。……大方、男に捨てられた恨みでもある幽霊なのだろうな。哀れなものだ。可哀そうだとは思うが、どうしようもない」
「屋代の謳いでは追い払えぬのか?」
「ああ、湖沼の神は特殊でな。肉と魂が揃わぬと召せぬのだ」
企鵝が言うと、鸞が目を瞬いて反応した。
「ほう! 古い神がおったものだなぁ!」
「古い神?」
俺が訝ると、鸞が、そうだ! と応じた。
「厳密に言うと、湖沼の屋代に居るのは久生ではなく、年が
「特別なモノ? なんだそれは」
「詳しくは知らん」
まただ。
鸞は肝心なところをすっ惚けた。
特別なモノと言っても、尸忌が肉以外何を喰うというのだ。
「へぇ、鸞は難しいことを良く知ってるんだねぇ」
企鵝は素直に感心した。鸞が久生であることは企鵝に言っていない。
「まぁ、とにかく、今夜は気をつけることだ。何かに話しかけられても寝たふりをしておけ!」
企鵝はそう言って前を向いた。