さえずり 2

文字数 759文字

 俺らが笑い出してしまったせいで、鳰はプリプリしながら梟の元へ戻ってしまった。
「何と言うか、素直で良いの!」
 鸞はまだクスクス笑っている。
「年初は『子どもだ』と威張っておったのに、今度は『子ども扱いした』と怒るとはな。まぁ、一応年齢相当の対応を心がけておったのだが、……アレは反則よ」
 俺が溜息まじりにぼやくと、鸞が笑みを引っ込めて俺を見上げた。
「これはもしや、ほんに子どもではのうなったのかもしれんぞ!」
「ん?」
 俺はハタと鸞を見返してその言葉の意味するところを考えた。
 子どもではない、ということはそれは……その……つまり……。
 さっき、鳰の頭を撫でた掌を見詰める。

――鳰は、女子だ。

 急に己の顔が熱を持った。
「なんだ? 主、照れておるのか?」
「なんか……急に実感がわいてしまった……」
「はぁ?」
「鳰は……女子だったのだよな」
 熱くなった顔を両手で覆う。鸞が呆れ顔を俺に向けた。
「鈍いなー、お主! 腑に落ちるまでどれだけ彷徨(さまよ)っておったのだ?」
「だいぶ。ここ数か月程。……そうか、ずっと子どもだと思うておったからピンとこなんだのか。雎鳩や精鋭に囲まれていると、アレが大人の大きさかと思うてしまう」
「アレらが標準である訳が無い。小さく思えても、鳰の背丈は一般的な女子のそれであるよ。おまけに鳰は次の年で15だぞ。高貴の子女であれば祝言の話がでてもおかしゅうない年齢である」
 俺は鸞を横目で見やった。
「これまた随分と飛躍した話よ」
「飛躍はしておらぬよ。鳰自身、我が身が女子だと解ったのなら、思慕が恋慕に変わるのも時間の問題であろう。主がちゃんと立ち回っておかねば、鳰を不幸にするぞ」
 子ども扱いするな、とあれほど怒ったということは、鳰は既に……。
「……それは、……難題だな」
 俺は顔を両手で覆ったまま、深く溜息を付いた。
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登場人物紹介

白雀(はくじゃく)

下級仕官の四男。戦では「花方」と呼ばれる切り込み隊の一人。

自他ともに認める朴念仁。堅物なくらいに真面目な性格。

新嘗祭の奉納舞ではトリを勤める舞の名手。

鸞(らん)

「久生(くう)」と呼ばれる魂を喰らう無形の神様。

白雀を気に入って自分の食物認定して付き纏う。

相手によって姿形を変えるが、白雀の前では5歳の童の姿でいることが多い。

傲岸不遜で態度がデカい上、戦闘能力も高い。

久生はもともと死者の魂を召し上げる役割を持つが、鸞の場合、生きている者から魂を引っこ抜くこともする。


波武(はむ)

実の名は「大波武」。成人男性を軽々背負える程の大きな白狼の姿の「尸忌(しき)」。

尸忌は、屍を召して地に返す役割を持つ神。

白雀の屍を召し損ねて以降、他に取られないように、何くれと力になる。

鳰(にお)

神に御身を御饌(みけ)に捧げる「夜光杯の儀」の贄にされ、残った右目と脳をビスクの頭部に納めた改造人間。

医術師の梟(きょう)の施療院で働いている。瀕死の白雀を看護した。

阿比(あび)

死者を弔う際に久生を呼び下ろす「謳い」。

屋代に所属しない「流しの謳い」を生業としており、波武、鸞とは古くからの知り合い。

遠仁相手に幾度となく修羅場を潜り抜けている。細かいことは気にしない性格。

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